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エイミー、怒る

和彦は、ゲームから抜け出て目を覚ますと、一人恥ずかしそうにバスルームに直行した。
シャワーを浴び、洗濯機を回し、リビングに戻ってくると、冷蔵庫を開け、缶ビールを一本取り出し、その場でプルトップを開けて、一気に半分ぐらい飲み干した。
「ぷっはー。
 いやー、ビールが上手い。
 …。
 しかし、25歳と言っても、どうみても中学、よくて高校生位にしか見えないよな。
 なんか犯罪を犯した気分になって来る…。」
そう言いながらも、和彦の顔はニヤニヤしていた。

「そう言えば、ターニャやユッカも何とかって言っていたな。
 何だったのだろう…。
 でも、今度の新キャラのナディアって、凄い美人だよな。
 ああいう娘も仲間に欲しいな。
 そうそう、アオハ、ウィルスの感染したって言っていたけど大丈夫かな。
 エテルナは、大したことはないと言っていたけど…。」
すでに和彦の頭の中から、ゲームの裏側やアオハとの楽しいひと時の記憶が霧散していた。

「え?!
 どういうことですか?」
エイミーが上司に食って掛かる。
(だけど、今日のテカテカ、ギトギトはいつもに増して凄いわ)
エイミーは上司の顔を見ながら、半分感心していた。

そこはインナーブレイン社の小さな会議室の中。
エイミーは、上司に呼ばれていた。
「マニュアルもなく、予測不能って。
 それに、ウィルスの侵入経路も不明って。
 そもそも、なんでビトレイアルブルッド島なんですか?
 あの島は中級の中でも上級に近いダンジョンで、しかも、今、使用禁止になっているんじゃないですか。
 早速、アオハ、いえ、AIがウィルス感染するし、マスターに怪我があったらどうするんですか?」
「まあまあ、そう鼻息を荒くするなって。
 マスターって、君の担当の小日向氏のことか?」
上司にそう言われ、エイミーははっとした顔をしたが、すぐに頷いた。

「何も情報がないと、ただでさえレベルが違うのに、フォローのしようがありません。
 強力な敵が現れて、大怪我でもしたら、本体の生身の身体にも影響が出てしまいます。」
エイミーは腰を上げると、上司を噛みつかんばかりの形相で睨みつけた。
「ちょ、ちょっと、待って、ちょっと待って、おねーさん♪」
上司は、エイミーを落ち着かせようと、ギャグっぽい話し方をした。
「それって、マスターも同じようなことを言っていました。」
エイミーは憮然とした顔で腰を下ろした。

「順を追って、説明するとな、細かな経路は僕も聞かされていないのだけど、ビトレイアルブルッド島のダンジョンは、どうやら、プロフェッサーの一人がトップに掛け合って、より現実に近いゲームに改造したそうなのだよ。
 しかも、そのゲームはコマンダールームから操作するのではなく、リアルにその場にモニターが降り立つことを前提に、より臨場感を持たせたゲームだということだ。」
「モニターがリアルになってゲームを進めることを前提としたゲーム?」
エイミーは怪訝そうな顔をした。

「そう。
 それで、その場で考え、判断してもらうそうだ。」
「なので、マニュアルがない?」
「ああ。
 人生と同じで、マニュアルがない分、自分で考えて、判断して楽しむそうだよ。
 判断を誤って、ゲームオーバーしても、また、最初からやり直すことが出来る、そう、人生やり直しゲームだそうだ。」
「人生をやり直せる?」
「そうそう。
 そうして、判断力を磨いてもらって、実際の人生に役立ててもらう目的だそうだよ。」
「でも、ゲームの中と人生は違うじゃないですか。」
エイミーは信じられないという顔をする。

「そうなんだよ。
 だから、まだ実験段階で、たまたま君のモニターが“リアル”でゲームを楽しんでいるから、白羽の矢が立ったってことだよ。」
「…」
「今時点で、“リアル”で楽しんでいるパーティは君のところくらいだそうだ。
 当然、レベルに開きがあるのは運用の方も認識していて、連れているAIのレベルアップ、強いお助けキャラの手配を調整しているとのことだ。
 だから、モニターには危害が及ばないよう、注意を払っているそうだ。」
「いきなり、マシンガンが飛び交う中で?」
(そう言えば、マスターのすぐ傍に居たターニャが、マシンガンの弾で怪我をしていたわね。
 もし、ターニャがいなかったら、マスターに当たっていたのではないかしら。
 どこが、危なくないですって?!)
エイミーはそう言いながら、酒場でのことを思い出していた。 

「ああ、そうだ。
 でも、結局、怪我一つしていないだろ?
 ただ、試作段階でセキュリティが甘かったのか、ウィルスが紛れ込んだのは誤算だったようだ。」
「そのウィルスですが、どこから紛れ込んだのかは、まだわからないのですか?」
「ああ。
でも、我が社のセキュリティ対策はしっかりしているので、外から入ることはない。」
「でも、アオハが…。」
「それなのだが、そのダンジョンは、敵からウィルス感染するとゾンビ化して襲ってくるという想定でプログラムが作られているそうなのだよ。
 恐らくそのうちの一つにバグがあって、本当のウィルスに感染されたように思ったのではないかと言うのが、今のところ技術部門の見解だ。」

「疑似ウィルスですか?」
「ああ、映画であるじゃないか、バイオなんちゃらっていう映画が。
 あれを真似て敵のAIを作っているようだ。」
「…。」
「わかったかね?」
エイミーは半分納得したが、半分は納得できていなかった。

しかし、会社の方針であればそれに従うしかなく、渋々頷いて見せた。
「ところで、私の役割は?
 マニュアルがなく、予測不能であれば、私はマスターに何の欲にも立てませんが。」
「君の役目は、小日向氏がどういうことをしたか、何を迷って、何を判断したかを克明に記録することだ。
当然運用側でも、データは取るが、近くにいて、かつ人間目線での情報も不可欠となる。
なので、コマンダールームからで構わないので、逐一、チェックし、記録を残してほしい。」
「コマンダールーム?
 あ?!
 ビトレイアルブルッド島にはコマンダールームがありませんでした。」
「ああ、そのこと?
 それも、不具合の一つで技術の方は認識しているとのことで、次回以降は、きちんとコマンダールームが作られ、そこから観察することが出来るそうだよ。」
「観察?」
「え?
 まさか、君。
 モニターに何か感情が芽生えたわけじゃないよな?
 モニターに対する私情は運用上支障をきたす恐れがあるので禁止だということを忘れていないよな?」
「え?
 え、ええ…、当然です。」
エイミーは一瞬、心の中を見透かされたかとドキッとしたが、何事もない振りをして答えた。

「ならばいいが…。
 じゃあ、そういうことなので、よろしくな。」
「は、はい。」
エイミーは担当から外されるのが嫌だったので、大きく頷いて見せた。
ただ、その会議室の中のやり取りが別室で白衣を着た女性に見られていたことは、当の本人たちも知らなかった。

翌日は土曜日で和彦の会社は休みの日だった。
仕事の疲れもあってか、和彦が目を覚ましたのは太陽が真上に上がったお昼近くだった。
「昨日ゲームから抜け出たのは午前零時を回っていたよな。
だからこんな時間まで眠っていたわけだ。
エイミーも寝るのが遅くなっただろう。
ゲームインは暫くしてからにしよう。」
和彦は、エイミーの睡眠のことを考え、起き上がるとシャワーを浴び、着替えて、洗濯と食事の支度をし、用事をしながら作ったご飯を頬張っていた。

そしてゆっくりと休憩をしてから、ゲームの準備をして、布団の上に寝転んだ。
和彦がゲームへログインすると、いつものようにヒトミが目の前に現れた。
「ヒトミさん、こんにちは!」
「小日向様、いらっしゃいませ。」
機嫌よく挨拶する和彦をヒトミは笑顔で迎えた。
「小日向様?
 何か楽しいことでもありましたか?
 なにやら、ご機嫌なようですが。」
ヒトミは小首をかしげて和彦を見た。

小首をかしげると、ヒトミのセミロングでサラサラの黒髪が、はらりと垂れ、何かいい香りが和彦の鼻をくすぐり、和彦は更に上機嫌になっていた。
「いや、昨日はゲームの中でアオハが敵に襲われウィルス感染したりして、たいへんだったはずなんだけど、何となく早くゲームの続きをやりたいなって、考えていたんだ。」
子供のように目を輝かせる和彦を見て、ヒトミは、つい、笑みをこぼす。
(昨日、アオハと楽しいことをしたからですよ。
 男の人って、みんなそうなのかしら。
 まあ、私も“お代わり”なんて考えないことはないけれど…(うふっ))

「そうそう、昨日は、申し訳ございませんでした。」
「へ?」
急に頭を下げるヒトミを見て、和彦は面食らった。
「昨日のウィルス感染ですが、あれはゲームのシナリオの一つで、本物のウィルスではありません。
 何分にも、あの島のマニュアルが間に合わず、コンシュルジュのエイミーも知らなかったので、アオハが“さも”本物のコンピュータウィルスに感染したかのように騒ぎたててしまい、本当に申し訳ございませんでした。
シナリオの話なので、ゲーム自体は安全が確保されていますので、引き続き、お楽しみいただければと思います。
心配になったり、お気分を害されたりいたしませんでしたか?」
ヒトミはすまなそうな顔をして丁寧な口調で話しかけた。

「あ、大丈夫、大丈夫。
 心配なんて、全くしていないから。
 それに、ゲームの中の話なら、尚更、アオハは大丈夫って言うことだよね。
 よかったぁ。」
「はい。
 こちらとしても、小日向様にそう言っていただければ、助かります。」
「あ、あと、エイミーは大丈夫?」
「え?」
「いや、昨晩、深夜までゲームをやっていたから、それに付き合っていたエイミーも寝不足なんじゃないかなって思って。」
(それで、ゲームに入ってくる時間を遅くしたのね。
本当に、この人、馬鹿が付くくらい優しい人だわ。)
ヒトミが和彦を見る目が一層優しくなっていた。

「エイミーも、しっかり睡眠をとって元気に小日向様をお持ちしています。」
(まあ、さっきまで、着替えたり、顔を洗ったり、大忙しだったけどね)
「そうそう、昨晩のお詫びと言うことで、この島をクリアした暁には、特別のボーナスを用意しております。
では、小日向様。
 設定はいつもの通りでよろしいでしょうか?」
「うん。」
「そうそう、今日は書斎を経由せずに直接ゲームの中にお通しする様に言われています。」
「直接?」
「はい、昨日の続きということで。」
「わかった。」
「では、行ってらっしゃいませ。」
「あ、ヒトミさん。
 特別ボーナスって?
 ヒトミさんの良い匂いって…。」
そう言いかけえいる途中で目の前の景色が変って行った。
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電脳子猫@委員会

Author:電脳子猫@委員会
エロ、グロ、怖いのは苦手。
時代劇や明るくちょっとエッチなSF好きのコンピュータエンジニアです。
どこかで読んだこと、見たことがある?
そんなことも随所に出て来るかと思いますが、それもお楽しみとして。
あくまでもオリジナル小説を目指します。

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