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冴えない男

「ん?ここは、どこだ?」
和彦は、きょろきょろと回りを見回した。
いきなり目の前に現れた空間、そこは、古ぼけた書斎のようだった。
部屋は10畳以上あろうかと思うくらいの広さで、まるで映画に出てくるような洋館の書斎さながらだった。
当然、立派で大きな机を中心に難しそうな本がたくさん詰まっている天井まで伸びた本棚が整然と壁一面に並んでいて、机の後ろは大の大人が自由に出入りできるような広い大きな窓があったが、夜なのか“こげ茶”色の厚手のカーテンが引いてあり、外は見えなかった。
部屋の灯りは薄暗く、“こげ茶”色をベースにした部屋は、どこかカビ臭くも感じた。
「こんな部屋、一度は、使ってみたかったな。」
和彦は素直な感想を漏らした。
「ふーん、こういうアンチークなのがお好きなんですね。」
部屋の片隅から女性の声が聞えた。
(そう言えば、さっきゲームの案内係が出てくるっていったけ。
 でも、部屋と同じで何か辛気臭いな。)
和彦は、暗がりにたたずんでいる生気のないような女性の存在に気が付いた。

小日向和彦は、電子機器メーカーに勤めるうだつの上がらない社員だ。
年齢は50歳を超え、年齢の割には頭の大半が白髪で、それでもって、髪の毛の量も少なく年齢以上に見られていた。
若い頃はスポーツマンで、体格も良く快活な容姿は女性に人気があったが、今では見る影もなく、唯一、その頃を想像できる面影を少しだけ残していた。
和彦の世代は、昔、自分たちで起業すれば高収入が得られた花形の業種だったことを反映し、ほとんどの社員が30代前半までに転職したため、和彦の世代、および前後の世代で今も残っているのはわずかだった。
和彦はというと、その起業の流れに乗ることが出来ず、ずっと今の会社に勤めているが、時代の移り変わりで、定着する社員がほとんどの今では、和彦の上司を含め、ほとんどが40代以下の若手で占められていた。
和彦は、最初は受託開発部門で1つのユーザーのところで、30年にわたりユーザーのシステムのお守りをしていた。
しかし、上司が変わり、新しい上司が若返りを打ち出し、電子部品の基盤開発部門に最近異動したばかりで、その部門は、最新の技術を導入していて、上司を含め、皆30代以下の若く勢いのある部署だった。
異動前の上司と今の上司との間で和彦を押し付け合っていたが、力の差で今の部署に決まったので、当然のこと、新しい部署では、和彦は厄介者以外の何者でもなく、冷遇されていた。

「小日向さん、この言語は出来る?」
「いえ、今までユーザー先のホストのコンピュータの言語しかやったことが無くて…。」

「じゃあ、設計は?」
「いえ、今まで設計書をもらって、その通りに作るだけで、システム設計はしたことがありません。」

「じゃあさ、ユーザーと用件詰めなんかは?」
「いえ、今までユーザー側のリーダーの下で決まった用件で指示を受けて作業していただけです。
 それに、私は、他の人と話すのがどうも苦手で……。」
「じゃあ、何ができるって言うの?!」

和彦の若い新しい上司は、苦虫を嚙みちぎったような、あからさまに不快な顔をした。

「なんで、あんな使えない爺さんが、こっちに来たんだ?」
「前の部署の、ほら、新しく部長になった例の人、あの爺さんが邪魔で、うちのボスに押し付けてきたんだって。」
「なんか取り柄があればだけど、一目見ただけでも、よぼよぼの爺さんじゃないか。」
「そうだよな、もう、とっとと辞めればいいのに。」
周りの社員も、和彦に聞こえるように話をしていた。
和彦は、その日も所在なさげに、ただ机の前に座り、終業のチャイムとともに、深々とお辞儀して部屋を出て行った。
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電脳子猫@委員会

Author:電脳子猫@委員会
エロ、グロ、怖いのは苦手。
時代劇や明るくちょっとエッチなSF好きのコンピュータエンジニアです。
どこかで読んだこと、見たことがある?
そんなことも随所に出て来るかと思いますが、それもお楽しみとして。
あくまでもオリジナル小説を目指します。

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