傍に居させてください。

第9ステージは、大きな神殿だった。
エイミーの説明では、クリアーの条件は、地下に数百人の住人が強制的に働かされているので、それを解放し、ボスキャラを倒さなければならないということだった。
神殿に近づくと、護衛の骸骨兵士が十数体、ばらばらと向かってきた。
骸骨兵士は、皆、剣の武装だったので、ユッカに任せ、ユッカは大きな斧で、骸骨兵士をなぎ倒していった。
そして、イリスの案内で、地下へ続く通路を進む。
途中、骸骨兵士やウォルヘン、ウォータールーパーが交互に襲ってきたが、和彦のゴーグルレーダーやイリスの遠目で事前に準備でき、コンビネーションよく撃破し、島の住人がとらえられている牢獄に到達する。
門番の骸骨戦士を退け、持っていた牢の鍵で、ターニャ、ユッカ、イリスは片端から牢のカギを開けた。
「さあ、早く、その扉から外へ。
 早くしないと、敵が大勢やってきます。」
イリスが、大きな声を出して、逃げるように促す。
住人は、その言葉に従って歓声とともに一気に地上に向かって逃げ出した。
数百人が一斉に逃げ出すので、当たりは喧騒と埃で周りも見えなくなるほど大変な状況になっていた。

「ターニャ、ユッカ、イリス、大丈夫か?
 皆、いるかー?」
喧騒と混乱の中、和彦は3人が巻き込まれていないか心配で、大声で3人の名前を呼んだ。
「はい、マスター。
 ここにいますよ。」
すぐ横から返事が聞え、和彦がその声の方を見ると、3人がニコニコ笑いながら和彦の傍らに立っていた。
「全部のカギは、開けました。」
「マスター、神殿にラスボスと、最後の破片があります。
 神殿は、このまま、真っ直ぐに進んだところです。」
「わかった、じゃあ、ラストと行くか。
 3人とも、怪我しないようにな。」
和彦の言葉に、3人は顔を見合わせ、何かを言って頷いたようだった。
(ね、優しいでしょ。)
(ほんと♪)

「誰だ、勝手に牢のカギを開けた奴は!」
神殿の方から大きな声が聞えた。
「ん?」
和彦には、その声に聞き覚えがあったが誰だかは思い出せなかった。
「ラスボスか?」
「はい。」
和彦の問いかけに、イリスが頷く。
和彦はゴーグルレーダーで確認すると、先の神殿と思われるところに大きな点と無数の小さな点が映っていた。

「ラスボスと、兵隊がいるな。
 それも、結構な数だな。」
「そうですね、おおよそ50体くらいでしょうか。」
イリスが、そう答える。
「イリス、攻撃魔法の威力は?」
「はい、詠唱に時間がかかりますが、一度放てば20Ⅿ四方の敵を粉砕することが出来ます。
 なので、その範囲に敵を集めていただければ、効率よく敵の数を減らすことが出来ます。」
「ええ?
 イリスちゃん、すごーい!」
ユッカが素っ頓狂な声を上げる。
イリスは、そんなユッカに向けて、笑いながら手を振る。
「そうか。
 ただ、詠唱の時は無防備になるんだろう?」
「……。」
イリスは黙って頷く。
「1体ずつなら、ごく短い詠唱で発動できます。」
「ごく短い?」
「ΨΘ」
イリスが理解できない言葉を一言発すると、目の前の地面がいきなり爆発した。
「なるほど…。
 でも、ざっとみても50体以上いるな。
 1体ずつみんなで倒して言ったら、時間とLPが消費され、ラスボス相手の時にヘロヘロになるな。
 やっぱり、イリスの大型攻撃魔法を使おう。」
和彦の声に3人とも頷く。

「まず、僕が詠唱しているイリスをカバーする。」
(やったー♪)
イリスは和彦が傍にいてくれるので嬉しそうな顔をした。
「ターニャとユッカは、なるべく敵の雑魚をここまで誘き込んでくれ。
 そうだな、最初はうまく相手の近くに行って、ともかく、目立つように派手に動きながら、僕とイリスの方に後退してきて。
 そうすれば、敵もターニャとユッカに誘われてくるはずだから。」
ターニャとユッカは頷く。
「イリス、詠唱はどのくらいかかる?」
「そうですね、だいたい3分くらいです。」
「あー、カップ麺だぁ。」
ユッカがまた、声を上げた。
「カップ麺、知ってるの?」
和彦は、不思議そうに尋ねた。
ユッカは、真顔で首を横に振る。
「見たことないし、ただ聞いたことがあるだけです。」
「あっそう、わかった。」
(ウルトラマンと言わなかっただけいいか…)
和彦は、深入りするのを止めた。

「ターニャとユッカはさっき言ったように、壁伝いに敵に見つからないように近づいて、ギリギリまで近づいたら、派手にぶっ放して、こっちに戻って来て。
但し、敵の武器に気を付けて、怪我をしないようにね。
 骸骨兵士が中心だけど、ウォルヘンやウィンドゴブリンとか勢ぞろいして、飛び道具や電撃があるから気を付けるんだよ。
 絶対に二人ともはぐれずに、コンビネーションよく陽動して。」
「はい、マスター!」
二人は、返事をすると、壁伝いに敵が屯している方に進んでいった。
「イリス、始めて。」
和彦がそういうと、イリスは頷き、和彦に寄りそうようにして目を閉じ、意味の分からない言葉の羅列をつぶやき始めた。
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エンジェルズ

その後、和彦のゴーグルレーダーに頼らなくても、イリスの的確な指示で、進むスピードがあがり、ボスステージにたどり着いた。
このステージのボスキャラは、キャタピラのついた巨大な骸骨戦士で、攻撃は両手に持つ大きなサーベルと口から吐き出す炎だった。
「マスター、相手はキャタピラなので、左右の動きが苦手です。
 ターニャとマスターが左右に分かれ、銃でキャタピラを粉砕すれば、動かなくなります。」
「わかった。
 じゃあ、動かなくなったら、ユッカが正面から相手の注意を引いてくれ。
 炎を吐き出したら、その斧で防げるか?」
「はい、マスター。」
「じゃあ、注意を引いている間に、ターニャと俺が一気に間合いを詰め、粉砕しよう。
 イリスは、少し離れたところから見ていて、危なくなったら指示を頼む。」
はい、マスター!
ターニャ、ユッカ、イリスの3人は声を揃えた。

攻撃はコンビネーションよく、和彦とターニャが左右から骸骨戦士のキャタピラを銃撃で破壊。
動けなくなった骸骨戦士は、その場で両手の刀を振り回し、炎の弾丸を吐き出そうとするところにユッカが正面から注意を引いて、和彦とターニャの接近をサポート。
それにより、和彦とターニャとも十分なダメージを与えることが出来る距離まで近づき、一気に刀を振り回している両腕を破壊。
大人しくなったところを、ユッカが正面から威力のある斧で一刀両断。
イリスの助言により、計画通りに敵を粉砕することが出来た。
やったー!!
四人はハイタッチして喜びを爆発させ、意気揚々とコマンダールームに引き上げてきた。
「はい、破片はこれで8つ目。
 あと一つで、この島の守護神のご帰還だね。」
「はい。」
エイミーは嬉しそうに和彦から取り返した破片を受取った。

「……♪。」
「……♪。」
「……♪。」
和彦は、ターニャ、ユッカ、イリスの方を見ると、3人は、お互いの顔を見ながら声は出していなかったが、まるで何か話し合っているようだった。
「あれも、情報交換?」
「はい、あれもシンクロのひとつです。
 あれで、知りえた情報を共有しているんですよ。」
「ふーん、そうなんだ。
 まるで、チャーリーズエンジェルみたいだ。」
「え?」
エイミーはアニメの勉強しかしていなかった。
「あ、いいよ。
 それより、情報交換すると、親密度も共有できるって言ってたよね。」
「ええ、そうですよ。
 ただ、前も言いましたように情報交換することで反対にマスターとの相性が悪くなるときがあります。
 でも、ターニャやユッカ、それにイリスは大丈夫そうですね。」
エイミーは、捜査しているタブレットを見ながら言った。
どうやらタブレットに映っているイリスの親密度が上がって行くのを見て言っているようだった。

「それはよかった。
 そうそう、仲間は増えた分、全員がバトルフィールドに出られるの?」
「いえ、基本的には5人です。
 マスターが、直接参戦されている今回のようなケースですと、マスターと仲間4人がMAXとなります。」
「ふーん。」
「4人未満でもいいですし、途中でメンバーチェンジも可能です。
 但し、リタイアすると欠員となって補充は出来ません。
 例えば、ターニャとユッカとイリスを連れたパーティで、ユッカがリタイアしたら、それ以降はターニャとイリスだけになります。」
「俺が、リタイアしたら?」
「速攻、ゲームオーバーです。」
「まっ、当たり前か。」
「はい、マスター。
さあ、この島の最期のステージですがいかがいたしますか?
既に2時間経過していますが、明日はお休みですよね。」

「ああ、当然、やるよ。
 ターニャ、ユッカ、イリス、準備いいかな?」
3人は、にっこり笑いながら頷く。
「あっ、イリス。
 一応、これ、塗っておいて。」
和彦は、ポリマーの容器をイリスに渡す。
イリスは、にっこりと微笑んで容器を受取り、素肌の部分に塗り込んだ。
イリスは薄着のため、背中部分も素肌が露出していた。
「背中とかは、マントを被っているので……。」
イリスは、「大丈夫」と言いかけて、和彦が首を横に振るのを見て言葉を飲み込んだ。
「ん。」
ターニャが、ポリマーの容器を顎でしゃくり、イリスから受け取った後、イリスの手の届かない背中とかにポリマーを塗った。
「さあ、じゃあ、出発。」
一行は、最後のステージに突入したが、突入直前でターニャが見せた行動を和彦は激しく違和感を感じていた。
(ターニャが、ポリマーを塗った??)

【おまけ】
イリスで~す。
殆ど、元ネタの絵師さんの絵になってしまいました。
イリスは可愛く、難しかったです。
やっぱり、やっぱり、元の絵師さんに描いてもらいたい(メジャーになってオファーを!!)
イリス

私を、入れてください!!

~明日からカレンダーは連休です。
 ということで、今日も長いです。お楽しみください。~

和彦たちは、言われた通り、慎重に周りを見ながら進んだ。
途中、地面だけではなく、壁にも白い穴が開いているところがあり、案の定、そこから勢いよく槍が飛び出てくる。
暫く待つと、槍は元の穴に戻るので、戻ったのを確認し、急いでそこを通り過ぎる。
しかし、そればかりに注意していると骸骨戦士が突然現れ、和彦たちに襲い掛かってくる。
なので、和彦とユッカはトラップに気を付け、ターニャは襲い掛かってくる敵に注意するという役割分担をして進んでいた。
そして、ある程度進み、そろそろボス戦というところで、再び、声が聞えた。
「右側の壁を壊して。
 そうすれば、扉が出てきます。
 私を仲間に加えてください!」
先程危険を知らせてくれた声と同じ声が聞えた。
「え?
 右側?」
「マスター。」
インカムからエイミーが割り込んできた。

「マスター、扉を開けると必ず仲間にしなくてはいけません。
 扉の向こうには、戦力になる仲間、戦力にならない仲間がランダムに配置されています。
 この島では、すでにユッカが仲間になっています。
 この島をクリアすることでポイントが溜まり、次の島で新しい仲間を見つけることが出来ます。
 また先程のステージのボーナスポイントで仲間を増やすことが出来ますが、ボーナスポイントは持ち越すことも出来ます。
 先程も言いましたように、当たりはずれがありますので、慎重に選択してください。」
「わかった。
 え?
 でも、開けずにスルーしてもいいの?」
「はい、問題ありません。」
「ふーん。」

和彦はそう答えると、すでに心は決まっていた。
「ユッカ、言われたところの壁を壊して。」
「はい、マスター。」
ユッカは、にっこり笑って、言われた通り壁を崩した。
崩れた壁の向こうに、光り輝く扉が出現する。
「さてと、どんな仲間が登場するかな?
 でも、俺って昔からくじ運悪かったっけ。」
和彦はいままで、抽選や福引などで、残念賞しか取ったことがないほど、くじ運のない男だった。
「ユッカ、そのまま、扉を開けてくれないか?」
「ええ?
 私がですか?
 駄目ですよー!。」
「え?
 じゃあ、ターニャは?」
ターニャは、首を横に振った。
「マスター、フィールドにマスターが出ている時は、扉はマスターが開けなくちゃいけない規則なんです。」
「え?
 そうなんだ…。
 じゃあ、仕方ないか。」
和彦は、そう言いながら扉に手をかけ、一気に開いた。

扉を開くとユッカの時のように、扉の奥から光のシャワーのように眩い光が和彦の視力を遮った。
しかし、すぐに光は弱くなり、扉の奥が見渡せる明るさに落ち着いた。
和彦は目をパチパチさせながら、奥を覗き込んだ。
中には黒っぽい塊が見えた。
「?」
和彦が『何だろう』と様子を窺っていると、その塊はいきなり動き出した。
塊と思ったのは、マントにくるまった人型のAIだった。
「ふう。」
そう言うと、その人型のAIは、深々と被っていたフードを取って和彦を見つめた。

「初めまして、マスター。
 私は、イリスと言います。」
イリスと名乗ったAIは女性の人型だった。
髪はユッカの様にロングだが、ユッカと違って黒髪、目はぱっちりしたエキゾチックな顔立ちの、かなりの美人だった。
背の高さは、ターニャよりも小柄で、年のころは、ターニャとユッカと同じくらいで、二十歳前後に見えた。
それよりも、目に着いたのはそのいで立ちだった。
最初は、マントで気が付かなかったが、マントの下は深紫を色調としたアラビアンナイト風の衣装で、おへそを中心に腹部は素肌が露出していた。
和彦は、その均整の取れた体格と形のいいおへそ、露出している肌がきめ細かくきれいだったので和彦は呆然とイリスを眺めていた。
イリスがにっこりと微笑みながら和彦の前に立つと、そのエキゾチックな服装とは裏腹に、沈丁花のような優しいいい香りがした。
また、間近かで見ると、髪の毛は黒と言っても紫が混じったような黒、瞳は衣装と同じような深紫色で、それがエキゾチックさを倍増させ、瞳は理知的な光が差していた。

「マスター?
 どうかしましたか?」
イリスは、立ち尽くしている和彦を不思議そうに眺めていた。
「あっ、いや、なんでもない。
 イリスは、武器とか持っていないの?」
「マスター、イリスはウィザード、そう、魔法使いです。
 魔法で遠くを見たり聞いたり、また、物陰に隠れている相手も透視が出来ます。
 攻撃魔法も使えますし、防御魔法も使えるので心強い仲間になります。」
エイミーが解説しているあいだ、イリスは、ターニャとユッカの方に笑顔で手を振っていた。
「遠くが見えたり、透視ができるなんて、フランソワーズみたいだ。」
「え?
 マスター、それって、『RE:サイボーグ009』ですか?」
(一生懸命、勉強したんだから♪)
(え?なにそれ?)
和彦は昔の009を知っていたが、『RE:サイボーグ009』を知らなかった。
「あ、いや、なんでもない」
エイミーは和彦の言ったことがわからなく、(違ったのかしら?)と眉間に皺を寄せたが説明を続けた。
「ターニャやユッカもそうですが、イリスもランクはSクラスまで上り詰められる設定ですので、大当たりです。
 くじ運、強いじゃないですか!!」
イリスは、エイミーの言うことを肯定する様に、頷いて見せた。

くじ運のことを言われ、和彦はまんざらではない顔をしてイリスに話しかけた。
「君が、今まで、危ないところで声をかけてくれたのか?」
「イリスです、マスター。
 イリスと呼んでください。
 声は、はい、私です。
 ここから、マスターたちの動きが見えたので、つい。
 特に、マスターが直接、バトルフィールドに降り立たれましたので、是非、私を仲間に加えてほしいと願っていました。
 マスターのゴーグルレーダーより使えると思いますよ。」
「そっか、それは、心強いな。
 じゃあ、新しい仲間ということで、これからよろしくね。
 そうだ、ポリマー持っていなかったな。」
和彦はイリスの肌が露出しているおへそを見て言った。
「マスター、ポリマーを塗らなくても大丈夫ですよ。
 防御魔法もありますし、虫にも刺されません。
また、このマントは防御用になっていますから。」
イリスは、おへその周りを触りながら、笑うようにして言った。
「わかった。
 このステージは、そのままでいいけど、戻ったら、念のために塗ってくれ。」
「はい、マスター。
 ありがとうございます。」
イリスは、にっこりと笑って素直に返事をした。
(笑顔も、超綺麗だな。)
和彦は自分の鼻の下が伸びているのに気が付かなかった。

マスターだけ…ですよ

~今回も、少し長いです。お楽しみください。~

コマンダールームに戻ると、エイミーが心配そうに和彦の方に走りで寄ってくる。
「マスター、大丈夫ですか?
 頭とか腕とか、痛くないですか?
 もう、あんな無茶するんですもの、ハラハラしましたよ。
 何度も、強制リタイアしていただこうと思いました。」
「あははは、悪い、悪い。
 最初、TM55の癖がわからなくって、2匹も外しちゃったからな。
 で、強制リタイアって何?」
「はい、モニターの方が危なくなったらゲームを強制的に終わらせることが出来るんです。」
エイミーはそう言って、タブレットを指した。

「でも、大丈夫。
 癖もわかったから、もう外さないよ。
 だから、これからも強制リタイアなんて物騒なボタンは押さないでね。」
和彦は、にやりと笑って見せた。
「まあ。」
エイミーは、和彦が生き生きしているのを見逃さなかった。
「で、ボーナスは?
 市街地の木や荷車は壊したが、建物や市民には被害はなかったはずだけど。」
「はい、仲間が増やせるボーナスポイント、しっかり、手に入りましたよ。」
「よっしゃー!」
和彦は、ガッツポーズをした。
子供のようにはしゃぐ和彦を、エイミー、ターニャ、ユッカを嬉しそうに眺めていた。

第8ステージは、洞窟の中だった。
壁に立っているロウソクの灯りのみで、中は薄暗かった。
「ターニャ、ユッカ、はぐれないようについてきて。」
「はい、マスター。」
進み始めたところで、和彦は背中に何かに引っ張られるような違和感を感じた。
「?!」
見るとターニャとユッカが和彦の背中のあたりの服をつかんで歩いていた。
(ま、いいか。)
和彦は、嫌な気どころか、何か嬉しかった。
角を曲がりと、少し広い空間の出ると、そこには、剣を持った骸骨戦士が3体いて、和彦たちの方に襲い掛かって来た。
和彦は、TM55のショットガンバージョンで1体倒し、ターニャがラウンドイーグルでもう1体倒した。
すると、残った1体が3人に背を向けて、反対側の出口に向かって逃走を企てる。
「まてー!」
ユッカが斧を振り回しながら追いかけて出口にから通路に出ようとした時、警告の声が聞えた。
「待って。
 行っちゃだめ!」
和彦は、瞬間的にユッカを後ろから抱きつき抱えあげ、一歩後退する。
ユッカは、和彦に抱き上げられびっくりし、じたばたしたが、すぐに大人しく和彦に身を委ねた。
すると、ユッカの踏みだそうとした床から無数の槍が突き出てきた。
「危ない。
 これが刺さったら、さすがにLPが一気に減るところだな。」
「マスター、ありがとうございます。」
「いえいえ。」
和彦はそう言いながら、両手でユッカの胸を掴んでいた。
(なんて柔らかいんだろう…。)
「マスター、いつまで抱き上げているんですか?
 重くないですか?」
ユッカは胸を掴まれているのも、まるで気にしていないように和彦に尋ねた。
「え?」
(重いのは胸?)
「降りますよ。」
「ああ、ごめん…。」
和彦は手を離すのを惜しかったが、そうもしていられず、ユッカに謝った。
ユッカは体を捻じり、和彦の肩に捕まって、地面に足を下ろし、和彦の耳元に口を近づけた。
「私の胸に触っていいのは、マスターだけですよ。」
「え?」
和彦は心の中を読まれた気がして“ドキッ”とした。

「マスター、大丈夫でしたか?」
エイミーの声がインカムから流れ込んできた。
「説明が遅くなって、申し訳ございません。
 通信がなぜか途切れたようで。
 直ぐに本部に確認させます。
で、マスターの目の前の槍はすぐに地中に戻ります。
 戻ると、5秒くらい出てきません。
 槍の出るところは1Mくらいですので、槍が引っ込んだら、直ぐに渡ってください。
 また、槍のトラップは出るところの穴が白くなっているので、今後、地面にも気を付けて。」
「わかった。
ところで“危ない”と言ってくれたのは君か?」
「え?
 何のことでしょうか?
 先程申し上げましたように、少しの間、回線が途切れていたのか…。
 それで、トラップの説明が遅くなったのですが。
 あと、トラップは地面からだけじゃないので、慎重に進んでくださいね。」
「わかった、ありがとう。」
和彦は、ターニャとユッカを促しすようにして、歩みを進めた。

頭は大事!

~今回は少し長いですが、お楽しみください~

和彦は、エイミーに渡され被らされていたヘルメットが気になって仕方がなかった。
ヘルメットは、道路工事に使用するような形ではなく、バイクに使うような耳まで覆うそこそこお洒落なヘルメットだったが、バイクも持っておらず、ヘルメットを被ったことのない和彦にとっては例えガンダムのパイロットの被るヘルメットであっても違和感の塊だった。
(だって、ヘルメットを被ると髪の毛が…っていうじゃない)
と、何の根拠もないことを考えてしまう和彦だった…。

「マスターこそ、大丈夫?」
ターニャが、和彦のヘルメットを指さして言った。
和彦はヘルメットを脱いでみると前頭部のところに水圧銃の弾丸が直撃したせいか、凹みがあっていた。
「メットが無かったら、頭割られていたかな……。
くわばら、くわばら。」
「くわばら?」
ユッカが不思議そうな声を上げる。
「ああ、魔よけのおまじないみたいなものだよ。
 弾が当たりませんようにってね。」
「くわばら、くわばら。」
「くわばら、くわばら。」
ターニャとユッカは面白そうに復唱した。

「何を燥いでいるの。
 マスター、大丈夫ですか?
 いったんログアウトして、怪我の手当てを…。」
「あ、大丈夫。
 もう痛みも何にもないから。」
エイミーの心配そうな声を遮って、和彦は明るい声で返した。
その時、女性の声が割り込んできた。
「こら。
 いつまで、遊んでいるの?
 このステージのラスボスが市街地に入って来ちゃいますよ。
 侵入されて、建物を壊し、住民に被害が出るとボーナスがなくなっちゃいますよ。」
「え?
 それは大変。
 て、誰?」
聞えた声は、ターニャでも、ユッカでも、ましてはエイミーでもなかった。

和彦は周りを見回したが、誰もいなかったので、ともかくステージのボスの迎撃に向かおうとしたが、ターニャがそれを止めた。
「マスターちょっと待って。」
「え?
 どうかした?
 トイレか?」
パシーンという音とともに、ターニャの平手が和彦のヘルメットに当たりいい音がした。
「ご、ごめん…。」

ターニャは和彦を睨みつけるとエイミーの方に話しかけた。
「エイミーちゃん、マスターのヘルメットを交換しないと。
 次に直撃を受けたら、このヘルメット割れちゃうよ。
 そうだ、ヒトミちゃんに連絡して、マスターをバトルフィールド用に強化してもらったら?」
「あっ、その手があったわ。
 というか、それをやっておかないといけなかったの、忘れていたわ。
 急いで、連絡するわね。
 ありがとう。」
エイミーはそう言うとすぐにどこかに連絡を取っているようだった。
そして、すぐに和彦の身体が一瞬光ったように見えた。

「マスター、今、マスターの身体をバトルフィールド用に強化してもらいました。
 なので、ヘルメットは不要です。
 でも、顔から上は直撃を受けないように気を付けてくださいね。
 いくらヘルメット並みに強化しても怪我して痛い思いをしますから。」
エイミーの説明では、和彦の身体は、通常よりも怪我と痛みを緩和させるように多少だが強化され、特に頭部については安全性を考えヘルメットをかぶっていると同じように強化されているとのことだった。
「ありがとう。
 ヘルメットは慣れていないせいか着け心地が悪かったんだ。
 よかった。
 じゃあ、ターニャ、ユッカ行こう。」
「はーい。」
和彦はターニャとユッカを引き連れて市街地の出口の方に向かって行った。

その頃、コマンダールームではエイミーが回収した和彦のヘルメットの損傷具合をチェックしていた。
「おかしわ。
 強化ヘルメットがこんなに凹むなんて。
 初級ステージの平キャラの威力じゃないわ。
 本部に報告しておかないと。」
エイミーは顔を曇らせた。

市街地の入り口にはウォルヘンを引き連れた大きなゴリラのようなグレートウッホがまさに市街地に足を踏み込もうとしていた。
「ユッカ、その大木をグレートウッホに向かって切り倒して。」
「はい、マスター。」
そう言うとユッカは高さが10m以上あろうかという大木を斧で切り倒した。
大木は、グレートウッホに向かって倒れていき、グレートウッホは、思わず後ろに飛び下がった。
「ターニャ、ユッカ、カバー!」
そう言うと和彦はグレートウッホに向かって走り出した。

しかし、和彦は5,6歩走ったところで、足がもつれバランスを崩した。
そこへウォルヘンが攻撃を仕掛けてきたが、同時に飛び出したターニャとユッカがコンビネーションプレー、ウォルヘンの電撃をユッカが斧で跳ね除け、その隙にターニャがラウンドイーグルで仕留め、退ける。
「マスター、大丈夫ですか?」
「さっきの頭に当たったダメージが?」
ターニャとユッカは和彦のすぐ傍に来て、心配そうに和彦の顔を覗き込んだ。
「いや、大丈夫。
 ちょっとよろけただけ。」
(よく子供の運動会でいいところを見せようと気持ちで走るが、身体が付いていけずによろけて転ぶってやつか
これは、まじで体を鍛えないと洒落にならないな。)
和彦は、運動という運動をここ数十年やっていなかったので、体力も衰え、息切れと脚がもつれたこと痛感した。
ただ、通勤定期代の節約で、本来の停車駅の3つ前までの定期を買い、お家まで40分位かけ歩いているくらいだった。

和彦は、深呼吸をした後、再び走り始め、TM55の威力が100%になるところまでグレートウッホとの距離を縮め、正面から向き合い、TM55をブレット(弾丸)モードにして、引金を弾いた。
「ぎゃっ、ぎゃっ!!」
TM55のブレットをまともに受けたグレートウッホは、瞬く間に霧散する。
「マスター!」
ターニャとユッカが和彦の傍らに走り寄った。
「二人とも、大丈夫?」
「はい、それよりマスターは?」
和彦は、にやりと笑って、右手の親指を勝利のポーズの様に立てて見せた。
(まだまだ、俺だって出来るんだ。)
プロフィール

電脳子猫@委員会

Author:電脳子猫@委員会
エロ、グロ、怖いのは苦手。
時代劇や明るくちょっとエッチなSF好きのコンピュータエンジニアです。
どこかで読んだこと、見たことがある?
そんなことも随所に出て来るかと思いますが、それもお楽しみとして。
あくまでもオリジナル小説を目指します。

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