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欠片、集めるんですよね?

「マスター?!」
エイミーの声が聞こえ、和彦は目を凝らすと、すでに馴染みになった書斎の中にいた。
「今日は、いらっしゃらないかと思って、ハラハラしていました。
 よかった。」
エイミーの嬉しそうな顔をみて、和彦は気分が高揚してくるのを感じた。
(やっぱり、エイミーもかわいいなぁ。)
とエイミーを見ながら思った和彦は、片手を上げた。
「やあ。」
和彦は、そう言って手短に挨拶をかわし、書斎の中を見渡した。

すると書斎の中の応接セットの長椅子にターニャとユッカが背筋を伸ばし笑顔で座っていた。
「ターニャ、ユッカ、もう大丈夫なの?」
はい、マスターをお待ちしていました。
二人は声を揃えていった。
「二人とも、リフレッシュしましたので、大丈夫ですよ。」
横からエイミーが説明した。
ターニャ、ユッカたちAIはゲーム中にどんなひどい怪我をしても、再起動することで元の通りにプログラムがリセットされ、怪我もすべて元通りになるように作られていた。
エイミーの言葉でスイッチが入ったように、ターニャとユッカは、椅子から起き上がり、和彦の方に近づいてきた。
ターニャは普通に和彦の前で立ち止まり、ユッカは、同じように和彦の前で立ち止まったが、くるっと体を回して見せた。
二人とも、大丈夫ということを表現していた。
ターニャからは焦げた匂いではなく、またユッカからは生臭い匂いではなく、いつもの良い香りがしてきた。
「こほん!」
エイミーがわざと、咳払いをした。

「マスター、今日はお時間も遅いのですが、ゲームはいかがいたしますか?」
「え?
 ゲームをやるために来たんだよ?」
和彦は怪訝そうに尋ねる。
「そうですね。
 ただ、中には、お話だけしてゲームをやらない方もいらっしゃると聞いたもので。」
「え?
 ゲームをやらないの?」
「はい、お話しだけして楽しんで行かれる方もいます。」
「そうなんだ。」
(そうか、確かにエイミーと話したり、ターニャやユッカを見ているだけでも、それはそれもいいかな。)
一瞬、和彦は心を揺さぶられる思いがした。

「マスター?」
今度は、ターニャが怪訝そうな顔をして和彦の顔を下から覗き込んだ。
ターニャの顔が和彦のすぐそばまで来ていた。
ターニャのいい香りと、直ぐ近くにあるターニャの顔、特に唇に目が釘付けになった。
(このまま、キスなんてできそうだな)
ふとそんなことを考えた瞬間、“とん”と背中を押され、和彦はバランスを崩し、前のめりになった。
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逢いたいな

陣内の剣幕を聞きつけ、開発部の部長の小池が飛んで来た。
「まあまあ、陣内部長。」
「まあまあじゃないよ。
 いくら小池さんだって。」
陣内は小池に向かって不機嫌そうな顔をした。
「ともかく、まずは私がそこの若手二人を引き連れて、謝りに行ってきます。
 それと、リカバリープランも作成しているので、間に合えばそれも持って行きます。」
「小池部長が行くなら…。
 そのリカバリープランはいつできるの?
 いくら小池部長が謝りに行っても、多少なりと何か土産を持たせないと、お客さんも納得しないよ。」
「正式な形じゃなくていいから、原因とどんな対応が可能かだけでも、そうだな、あと10分で作って。」
小池は若いエンジニアに向かって指示した。
陣内は、具体的な話になっていたので、次第に冷静になっていった。
「はい、何とかします。」
「で、この人は何してくれるの?」
陣内は、そう言いながら、ちらりと和彦を見た。
和彦は、偉そうに怒鳴り散らす人種は嫌いだったので、無言で陣内を眺めていた。
なんで、黙っているんだよ!
陣内の顔は、また怒りで赤くなって来ていた。
「まあまあ、陣内部長。
 小日向君には、報告書や始末書を作ってもらうので。」
「ふん。」
そう言って陣内は、和彦に背を向けて部屋から出て行った。

「小日向君も、頼むよ。
 やっぱり、ちゃんとお客さんのところに顔を出さなくっちゃね。」
そう言うと、小池も和彦に背を向けて歩き去った。
「あの…(だって、この二人が余計なことをするなと)」
和彦は、小池の背中に向かって、言いたかった言葉を飲み込んだ。

(まったくパワハラもいいところだよ。)
陣内の剣幕を思い出しながら、和彦は帰宅した。
(でも、夕方位に営業部のPC、コンピューターウィルスに感染したって、大騒ぎになっていたなぁ。
 大丈夫だったんだろうか…。)
背広を脱いで、椅子に腰かけ、脱力感を感じていると、目の片隅にゲームチューナーが目に留まった。
(疲れているけど、エイミーやターニャ、ユッカに逢いたいな。
 ちょっとだけ、ゲームをやって、早く寝よう。)
そう思いながら、和彦はいそいそとゲームの準備をし、布団に横になった。

眼を閉じるとすぐに、もう見慣れたヒトミが登場し、今回の設定について確認してきた。
「今回の設定は、いかがなさいますか?」
「ああ、この前と同じで。」
「わかりました。
 30代ですね。
 他、何か変更はございますか?」
「ううん、ないです。」
「今日は、お疲れだったでしょう。
 でも、気晴らしに、“うーん”と楽しんできてくださいね。」
「え?」
和彦が聞き直そうとしたが、ヒトミは笑顔で会釈し、消えていった。
(いつもより、優しいなぁ。
 でも、本当にあの子に似てるな。)
和彦は、ヒトミに初恋の人の面影を感じていた。

電猫は怒る

次の日の朝、和彦は重い気分で目を開けた。
ゲームと分かっていても、ターニャとユッカの倒れた姿が目に浮かび、どうしても気が晴れなかった。
それでも、布団から這い出し、何気なしにゲームチューナーの方を見ると、見慣れない文字が流れていた。

『It's okay! Both of you have become energetic!(大丈夫ですよ!二人とも元気になりました!)』

(そっかぁ、元気になったか。)
和彦は、何か心が晴れた気分になった。

会社に行くと、すぐに騒ぎが起こった。
和彦がリーダーとして名前を貸していたプロジェクトで納品したシステムに一部、不具合が見つかり、ユーザー先から強いクレームが入っていたのだった。
最初は、和彦を小馬鹿にしていたシステムと営業の若手が対応策を考えていたところに、営業部長の陣内が怒鳴り込んできた。
陣内は、40代前半で濃い顔立ちに、黒縁のメガネをかけ、脂ぎった顔の小太りの男で、上には徹底的に平伏する反面、格下の者に対してはヒステリックに怒鳴りつけ道具としか見ていないような、和彦は好きになれないタイプだった。
「何やってんの。
 まず、お客様のところにいて謝るのが先でしょ。
 小日向さん、リーダーをやっているのに、そんなことできないの?
 冗談じゃないよ。
 そのくらいのこと、普通に考えればわかるでしょ。
 これで、お客様がそっぽを向いてしまったら、どうするの?」
陣内が、和彦を罵倒し始めたのを見て営業の若手が口を挟んだ。
「あの、部長。
 小日向さんには、名前を貸してもらっただけで……。」
「何言ってるの。
 名前を貸しただけだって?
 名前をお客様に出したら、普通、挨拶に出向くのが当たり前でしょ。
 ひょっとして、小日向さん、挨拶にも行ってないの?
 ちょっと、勘弁してよ。
 ふざけんのもいい加減にしろって!
 どこの世界で、下っ端の人間が胡坐をかいて見ているだけなんだ。
 こっちなんて、営業の売り上げ目標を達成するために、血眼になっているんだぜ。
とんでもねえ、奴だな。」

その時、和彦のスマートフォンのモニターが怒気をはらんでいるように赤く光っていることに和彦をはじめ、誰も気が付かなかった。

「な、なにこいつ!
 マスターを怒鳴りつけやがって!」
「ほんと、こっちの世界だったら撃ってやるのに!」
「私だったら刻んでやる。」
「まあまあ、落ち着いて。」
「ヒトミちゃん、何で落ち着いて…。
 ヒトミちゃん?」
「大丈夫よ。
 後でしこたまウィルスを送り込んでやるから。
 あいつのPCに。
 あいつの顧客データから個人情報まで全部…。
 イッヒッヒッヒッ。」
「…」
「…ヒトミちゃん、顔が怖い…。」

和彦のスマートフォンのモニターが更に激しく点滅しているのを誰も気づいていなかった。

電猫は眠らない?

和彦が眠りについたころ、和彦のスマートフォンに明かりが灯り、和彦に聞こえないくらい小さな声で女の子たちの話し声が聞こえてきた。

~ ここからは、会話のみです。
  話しをしている場面を想像しながらお楽しみください ~

「あ~あ、マスター、きっと“しょげかえって”寝ちゃったよ。
 可哀想ぅ。
 だいたい、ターニャがあんな攻撃をもろに喰らうからいけないのよー。」
「えー、だって…。
 そんなこと言ったって、だってユッカだって同じじゃない。」
「てへっ!
 失敗、失敗。」
「今度は、上手くやってあげないとね。」
「まったく。
 いくら相性が最悪でも、もう少し”やりよう”があったもんね。
 でも、あのロボ、邪魔よね。」
「こら!
 それ言ったらダメよ」
「はい、はい。
 どうしよう、気持が和らぐように、子守歌でも歌ってあげようか。」
「もう、寝ているって。」
「あははは、それもそうね。
 あ、このサイトの洋服、可愛くない?」
「どれどれ…。
 ほんと可愛いけど、このフリフリ、ユッカ好みじゃない。」
「どれどれ。」
「…」
「…」
「うわぁー!!
 ヒッ、ヒッ!!」
「わわ、ヒトミちゃん?!
 ど、どうしたの?」
「“ヒッ、ヒッ”じゃ無いわよ。
 あなた達が怪しい動きをしていたからつけて来たんじゃない。」
「こ、これは、内緒で。
 特にエイミーちゃんには…。」
「わかっているわよ。
 エイミーにばれたら、怖いわよ~。」
ひぃ~!

「ところで、聞いたわよ。
 今日、ドジったんだって?」
「う、それって不可抗力でして…。」
「それよりあいつ、あのスラームの奴、私の胸やお尻を触ったのよ。」
「ええ?
 ターニャの貧乳を?」
「う…(どうせ、ユッカより小さいわよ)。」
「でも、例の教育プログラムは起動してたんでしょ?」
「当たり前じゃない。
 前も後ろも何もないわよ。
 “つるっつる”よ。」
「ならばいいじゃない。
 私なんか、変な液体を顔に掛けられたんだから。
 気持ち悪いの臭いのって、もう、皮がむけるほど顔を洗って、髪の毛を洗って、まだ、変な匂いがするような気がするのよ。」
「きっと、あいつの趣味ね。」
「あ、あいつか。
 あのオタクっぽいエンジニアでしょ。」
「絶対そうよ。
 どうしてくれようかしら。」

「まあ、まあ、どちらでもいいけど、マスターを悲しませないでね。」
はーい、ヒトミちゃん!!
「まあ、返事のいいこと。
 で、この洋服?
 ちょっと趣味が…。」
「ええ?
 趣味悪い?」
「うん。
 私なら、こっちかな…。」
ええー、ヒトミちゃん、そっち系?
「うふふん♪」

明け方まで、和彦のスマートフォンは、せわしなく動いていた。

追記
楽しいコメントをお待ちしています♪

変わり果てた…

ターニャとユッカの変わり果てた姿を呆然と見ていた和彦が重い口を開いた。
「エイミー、二人は…大丈夫?」
「はい。
 但し、ダメージがひどいので、一度、ゲームを終わらせ、リセットさせなければなりません。」
「元に戻るのか?」
「はい。」
エイミーはか細い声で訊いてくる和彦に心配そうな声で答える。
「そうか。
 じゃあ、よかった。
 でも今度、会ったら嫌な顔されるな…。」
「マスター、これらはAIですがそういうプログラミングはされていません。
ゲームなので大丈夫です。」
(あっ!)
エイミーは、ターニャやユッカをもの扱いするのを嫌がる和彦を思い出し、まずいことを言ったと”はっ”として身構えた。
「そう……。」
しかし、和彦はいつものような反論はしなかった。

「マスター、今日は、お疲れのようですので、ここまでになさっては?」
「そうだね、そうするよ。」
「マスター?
 これは、ゲームなので大丈夫です。
 次は、頑張りましょう。」
エイミーは、和彦を力づけようと、腕を曲げ、力こぶを作ってポーズをとった。
「うん。
 じゃあ、今日は終りにする。」
「はい。
 お疲れ様でした…。」
エイミーはなおもしゃがみ込んでいる和彦の傍にいき、和彦の顔にそっと両手を添えて、自分の胸に引き寄せ抱きしめるように手を回した。
「エイミー?」
和彦はびっくりしたが、エイミーの胸の柔らかさと何とも言えない優しい香りに、エイミーにされるがままにじっとしていた。
1分程経った頃、エイミーはそっと腕をほどいた。
「マスター。
 元気出して、次の冒険に行きましょうね。」
エイミーはそう言うと、にっこりと笑った。
和彦はエイミーの顔を見て、小さく頷いた。

和彦は、目を開けると、そこは自分の布団の上だった。
上半身を起こし、ゴーグルやヘッドギアなどを外し、ゲームチューナーを見ると、モニターに流れていく文字を読んだ。

『We are really looking forward to you coming!(あなたのお越しを皆お待ちしています)』

そして力なく起き上がり、バスルームに入り鏡を見た。
薄暗い電気の光で自分の顔を見ると、白髪のみすぼらしい老人のような変わり果てた自分が映っていた。
「好きで歳取った訳じゃないんだ…。」
そういうと、和彦は鏡におでこを付け、嗚咽を漏らした。
外から、深夜にもかかわらず、救急車のサイレンの音が聞えてきた。
プロフィール

電脳子猫@委員会

Author:電脳子猫@委員会
エロ、グロ、怖いのは苦手。
時代劇や明るくちょっとエッチなSF好きのコンピュータエンジニアです。
どこかで読んだこと、見たことがある?
そんなことも随所に出て来るかと思いますが、それもお楽しみとして。
あくまでもオリジナル小説を目指します。

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