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真夜中の…、だーれだ!

「!」
和彦は、目を開けると、そこは自分の布団の上だった。
上半身を起こし、ゴーグルやヘッドギアなどを外し、一息つき、チューナーのような機械を見ると、モニターに右から左に流れていく文字が目についた。
その流れていく文章は、次のような文章だった。

『We are really looking forward to you coming!(あなたのお越しを皆お待ちしています)』

「ふーん」
和彦はまんざらではない声を漏らした。
今の部署は、男性が多く、女性がいても当然、和彦を無視していたので、女性、特に若い女性と親しく話す機会など、ここ数十年なかったと言ってよかった。
なので、ゲームの余韻に浸りながら、何年振りかで気分が高揚していた。
「さて、シャワーを浴びて、何かつまんで寝るかな。」
軽口の独り言も自然と出ていた。
そして、起き上がってバスルームに入って行くと、横の洗面台のところに、大きな鏡があり、入ってきた和彦を映しだした。
その鏡には、電気を点けなかったので薄暗かったせいか、みすぼらしい初老の男が映し出されていた。
その鏡を見ながら、和彦は力なく思った。
(これが、現実の姿か……)
和彦は仕事の配置転換によるストレスなのか、人間関係によるストレスのせいか、どちらにしてもここ数年で、黒かった髪が抜け落ち、その下に生えていた白い髪がまばらに見え、それが実年齢より一層、年寄りにしていた。
なので、和彦は、最近、鏡を見るのが嫌いになっていた。
鏡に映った自分の姿を見て高揚していた気分もあっという間にしぼみ、和彦は力なく、シャワーを浴び、布団の中にもぐりこんだ。

暫くして、和彦が寝息を立てはじめた頃、寝る前に充電用のケーブルに差していた和彦のスマートフォンのモニターがぼおっと光り、まるで誰かがせわしなく何か操作しているようだった。
「わ、わ、すごい。
 この食べ物、すごく美味しいんだ。
 何々、ナトリウム…%、グルテン…%…、へえ、こういう化学式が美味しいって言うんだ。
 あ、この服、なんか可愛い…。
 て、可愛いって意味は?
 え?
 見ていると、よだれが垂れそうになるのが可愛い?
 食べたくなるってこと?
 何か、違うような…。
 あっ!! 
 ……、男の人って、こういうことするの好きなんだ…。
 へぇー……(すごっ!)。」
 
そして、夜明け頃、和彦が目を覚ます頃に、スマートフォンの明かりが消え静かになった。

翌朝、和彦はいつものように目を覚まし、いつものように支度をし、決まった時間に家を出た。
しかし、いつもと少し違ったのが、今日は、早く家に帰ろうと思ったことだった。
何の楽しみもなく、会社に行って、ただ帰るだけ。
毎日が灰色の中にいるような生活だったが、今日は目が覚めた後、ゲームのモニターに流れている文字を読み、何か光が差し込んできた気がした。
「さて、今日は頑張るか!」
和彦が家を出た後も、モニターには次の文字が流れていた。

『I can hardly wait till I see you!(あなたの帰りをお待ちしています)』
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親密度がいきなり上がったAI

ターニャは、フィッシャサンドを一口食べて、初めて和彦に“にっこり”と微笑んだ。
「美味しいです、マスター。」
「そうだろう。
 あれだけ、動いたんだからお腹も減ったろう。」
「マスター、また……。」
ターニャというAIを擬人化する和彦に、エイミーはなんて言ったら良いのかわからず、言葉を濁した。

それよりもターニャの動きが気になり、エイミーはタブレットを取り出し、何か調べていた。
「え?
 親密度が50?」
エイミーは驚いた声を上げた。
「エイミー、どうしたの?」
「いえ、マスター。
 ターニャの親密度が50になっているんです。
 普通、ステージを1つクリアして、2~3上がるくらいなんですが、5つのステージで、しかも練習ステージで50になるはずは……。」
『なるはずはない』と言おうとしたが、先ほどのターニャの動作、物を食べ、表情を作り、『美味しい』というセリフまで言ったことを思い出した。
(AIが何かの刺激で急激に学んだのかしら。
 刺激?
人間じゃあるまいし…。
いくら親密度が上がっても、こんなに人間らしい受け答えをするなんて。
あとで、技術チームを巻き込んで分析しないと。)

フィッシュサンドを食べ、コーヒーを飲んだ後、エイミーは、再びタブレットを見てから和彦に言った。
「マスター、そろそろ2時間になりますが、ゲームを終了しますか?」
「え?
 もう2時間経ったって?
 確か、始めたの夜の10時ごろだったよな。
 明日も朝早いから、早く寝なくっちゃ。」
和彦は、そわそわし始めた。
「では、書斎に戻って、今日は終了といたしましょう。」
エイミーはにっこり微笑んで言った。
すると目の前の景色が、最初の書斎に変わり、和彦は椅子に腰かけていた。
「では、あちらがゲームの出口の扉です。」
見るとすでにエイミーだけだった。
「あれ?
 ターニャは?」
「ターニャは、既にスリープしていますが…?」
「いや、挨拶するのをと思って。」
「では、再起動させますか?」
「いや、いいや。
今日は、楽しかった。
 また、明日、遊びに来るね。」
「はい。
 お待ちしています。」
そういうとエイミーは恭しく頭を下げた。
和彦は、エイミーに手を振り、出口と言われた扉を開けた。

フィッシュサンドを食べるAI

「マスター。
 今回、ゴールドが10,000ゴールド貯まりました。
 フィッシャーマンズ・ワーフに行って、何かお召し上がりになりませんか?
 お疲れになったでしょうし、物足りないものについては、思いついた時に教えてください。
上の者に報告し、改善させますので。」
「わかった。
 で、フィッシャーマンズ・ワーフ?」
「はい。
 この島に上陸した最初の場所です。
 あそこは、漁港に面した魚市場で、美味しい食べ物も売っているんですよ。」
「そうか、それでにぎやかだったんだ。」
「はい。」
エイミーは明るい声で返事をした。

それから、3人はフィッシャーマンズ・ワーフに来ていた。
最初は、和彦とエイミーの2人の予定だったが、和彦の希望でターニャも一緒にいくことになった。
「ほんとうだ、にぎやかだな。
 それに、あちこちから良い匂いが漂ってくる。」
和彦は、ここがゲームの中であることを忘れたようだった。
「マスター、あのお店のフィッシュサンドとコーヒーのセットが有名です。
 一人分、320ゴールドですので、マスターの分、買ってきましょうか?」
「そうだね。
 じゃあ、3人分買ってきてくれる?」
「え?」
エイミーはびっくりして聞き直した。

「そう、3人。
 僕と、エイミーと、ターニャの分。」
和彦はにっこりと笑って言った。
「わかりました。
 では、御馳走になります。
 ターニャ、運ぶの手伝って。」
エイミーがそういうと、ターニャは黙って頷きついていった。

「本当だ、うまいな。」
フィッシュサンドを頬張りながら、和彦は感激して言った。
「それはよかったです。
 実は、わたしも初めて食べたんですが、マニュアル通り、美味しいですね。」
「そうなんだ、エイミーも初めてなんだ。」
「はい。
 一応、ゲームのステージは事前にモニタリングしてわかっているのですが、食べ物は、初めてです。」
「じゃあ、よかった。
 ターニャは、どう?」
「マスター、ターニャには、そういう人間的なものはプログラムされていません。
なので、食べるなんて…。」
エイミーが説明すると、その横で、ターニャがフィッシュサンドを一口頬張った。
「え?」
エイミーは、びっくりしてターニャを眺めた。

せっせと手当てをする男

「マスター、大丈夫なので、ゲームを楽しんでください。」
「うん、そうなんだけど……。」
和彦は歯切れ悪く答えたが、すぐに切り替えたようだった。
「ターニャに怪我をさせないようにすればいいんだ。
 頑張ろう!!」
「マスターは、やさしいんですね。」
エイミーは、和彦に聞こえないくらいの小さな声で呟いた。
「え?」
和彦はエイミーが何か言った気がしたが、すぐに、先ほどと同じようにレーダーとターニャがモニターに映し出された。

ステージ2の敵キャラはステージ1と同様にゴブリンだったが、雑魚キャラからこん棒を投げつける攻撃が加えられていた。
また、ステージ1では身をひそめる岩がたくさんあったが、ステージ2では岩ではなく、ブッシュだった。
そのため、敵に見つけられないようにするには、低い姿勢で深いブッシュからブッシュへとうまく立ち回らなくてはならなかった。

ステージ3では、敵キャラはゴブリンからアーミーに変わっていた。
アーミーは、戦闘服を着た今風の人型AIで攻撃力などは弱いが、武器が剣、槍、銃とステージが上がるごとに変わっていった。

和彦も、ゲームに慣れてきたが、ターニャを傷つけないように細心の注意を払っても流れ弾や弾かれた石などで、ステージ1ほどではなかったが、ステージが終わるたび、ターニャは傷を負って戻ってきた。
その度に、和彦は、ターニャの傷の手当てをしていたが、その労力はリフレッシュで無駄なものに変わっていった。

エイミーは、初めは口出ししていたが、途中からは何も言わず和彦のさせたいようにさせていた。
(まあ、下心から触りたいわけではなさそうだし、純粋に傷を心配しているのね)
一方和彦は、手当てが目的だったが、ターニャの怪我をした腕や脚を触っていうちに、何とも言えない高揚感を感じていた。
(ターニャって何て柔らかくて温かいんだろう…。
と、いけない、いけない、何て不謹慎なことを考えているんだ)
和彦は、思わず頭を左右に振った。

「これで、練習ステージの5までクリアーしましたが、いかがでしたか?」
「そうだね、ゲームとしては、結構面白いんだけど、ターニャが怪我をするのは嫌だな。
それと、何か。
 うーん、何か物足りないんだよな。」
「なんでしょうか?
 何が物足りないのですか?」
エイミーは困った顔をしていた。
「それが、まだ、何と言っていいのやら……。」
和彦は、考えこんでしまった。

チェンジしますか?

「でも、じゃあ、ゲームの度にコンシェルジュは変わるの?」
和彦は違う質問を投げかけた。
「え?」
「だって、エイミーが人間なら、僕がいつゲームに入って来るかわからないじゃない。
 それに、エイミーがご飯を食べている時やお風呂に入っている時だったらどうするの?」
(お風呂…、まさか、裸で出て来る?)
「来ません!!」
にやけた顔をした和彦に、エイミーはピシっと否定した。
「あ、ごめんなさい。
(今日は何度、ごめんしたっけ…。)
 だから、エイミーの都合が悪い時に、僕がゲームに入ってきたら他の人が順に担当するんじゃない?」
「いえいえ、コンシュルジュはテレフォンオペレーターじゃないですよ。
 最初に申し上げたように、マスターがこの世界で何をするか、しっかり記録させていただくため、コンシェルジュは変わりません。
 ただし、マスターから変更の依頼があった場合や、私が体調を悪くし参加できない時は、その時は違うものがコンシェルジュを担当します。
 どうします?
 担当を変更しますか?」
エイミーは、淡々と話した。
「いや、エイミーのままで!」
和彦は、力強く答えた。
「わかりました。」
そういうと、エイミーは恭しくお辞儀をした。

「でも、どうやって僕がゲームに入ってくるのがわかるの?
 それに、入ってこない時は何をしているの?」
和彦は、不思議で仕方なかった。
「まあまあ、マスター。
 それは企業秘密、ひ、み、つ、ですわ。」
そう言ってエイミーは微笑みながらウィンクをして見せた。
(う、可愛い…)
和彦は、労働時間は?残業手当、休日手当、深夜手当は?福利厚生は?お給料は?と聞きたいことは山積みだったが、それ以上詮索するのを止めにした。
(賢明です、マスター)
和彦は、思わずターニャを見たが、ターニャは知らん顔して、明後日の方を見ていた。

「では、次のステージに行きますか?」
エイミーのセリフに、和彦は“はっ”としてターニャの怪我を見た。
するとターニャの左肩の傷は既に無くなっていて、服に滲んだ血も跡かたもなかった。
「ターニャは、リフレッシュしていますので、問題ありません。」
エイミーが和彦を気遣って言ったが、和彦は気になって仕方なかった。
「ターニャ、大丈夫なのか?」
和彦の問いかけに、ターニャは黙って頷いた。
「じゃあ、ターニャ、ステージ2へ。」
エイミーの声に、ターニャはだまって頷き、ステージ2と書かれたドアを開け、部屋を出て行った。
甘い良い香りを残して。
その時、やっと和彦は手当をしていた時に感じたターニャの腕の柔らかさ、温かさを思い出したように、じっと自分の手を見つめた。
プロフィール

電脳子猫@委員会

Author:電脳子猫@委員会
エロ、グロ、怖いのは苦手。
時代劇や明るくちょっとエッチなSF好きのコンピュータエンジニアです。
どこかで読んだこと、見たことがある?
そんなことも随所に出て来るかと思いますが、それもお楽しみとして。
あくまでもオリジナル小説を目指します。

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