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久々の女性の…

「ここは僕の思い描いたもの?
 この部屋や、君もそうなのか?」
和彦は釈然としない面持ちで尋ねた。
「部屋や、装飾はそうですね。
 漠然と思っているものを、より近くリアリティに再現しています。
 私の服も。」
そう言って、女性はスカートの裾を再びつまんで、軽くはためかせた。
「そうなんだ…。」
和彦は、まるで現実世界にいるような気がして、“すごいな”とただただ感心した。

「さて、立ちっぱなしじゃ、お疲れになるでしょう。
 コーヒーでもお持ちしますので、机の椅子に腰かけてください。
 さあ、こちらへどうぞ。」
女性は、そう言うと和彦の手を取って、書斎の窓際にある大きな机の方に誘導するように手を握ったまま歩き始めた。
女性の手は、暖かく、そしてとても柔らかかった。
和彦には、ここ何年も女性の手を触ったこともなかったので、その柔らかで温かな感触が気持ちよく、つい、その女性の手をそっと握り返した。

女性は何も言わず、和彦の手を握ったまま歩いて行く。
そして先に歩くその女性から薔薇の香りとともに何とも言えない良い香りがして、何もかも和彦にとっては、新鮮で、異性、そう女性について忘れていた記憶を呼び戻すようだった。
会社の女性は、化粧品が濃く、化粧品の匂いをぷんぷんさせているかと思えば、化粧っ気が全くなく生活臭を漂わしている者、中にはきちんとした女性もいたが、いろいろな匂いが入り混じっていて、和彦にとっては、とてもいい匂いをは思えなかった。
そして、そんな女性社員たちは誰も和彦に近寄ろうとはしなかった。

「さあ、こちらへお座りください。」
そういうと、女性は和彦の手をほどき、椅子を引いて、座る様に促した。
和彦は少し残念だったが、言われた通りに椅子に座ると、女性は机を間に挟み正面に立った。
「今、お飲み物をお持ちしますね。
 確か、コーヒーはブラック。
 銘柄は、ブラジルでしたね。」
「ああ、前は、キリマンジャロが好きだったんだが、最近はブラジルかな。
 でも、よく好みがわかったね。」
「ふふふ。
 まあ、直ぐにお持ちしますので、少しの間、お待ちください。」
そう言うと、女性は軽くお辞儀をしてドアから出て行った。
そして、すぐに、コーヒーのいい香りをさせながら、お盆に湯気の出ているコーヒーを持って部屋に入ってきた。
「お口に合うかわかりませんが、どうぞ。」
女性はニコリと笑ってコーヒーを和彦の前に置いた。
「あ、ああ…。」
和彦は、コーヒーカップを手に取り、一口、飲んでみた。
「美味い……。」
確かに今まで飲んでいたコーヒーとは雲泥の差の様に美味しく感じたが、何か違和感を感じていた。
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マスターと呼ばれた男

和彦は、女性に洋服が薔薇の香りがするんだと言われ、何となく部屋の中に薔薇の香が漂ってきた気がし始めた。
鼻をピクつかせている和彦を後目に、女性は、部屋の端から和彦に向かって歩み寄ってきた。

「さてと、この部屋、少し暗すぎません?
もう少し、明るくしていいですか?」
和彦は黙って頷いた。
女性は、手に持っているリモコンらしきものを操作した。
すると、先ほどまでの黄色の薄暗い室内光が、白っぽい光に変わった。
それと同時に、目を通すことなく埃まみれになっていた、いや、埃まみれになっていたと思われた本棚の書物が、つい今しがたまで読まれていた様に、埃もなく整理整頓されている生き生きとした書物に見えてきた。
「いかがですか?」
女性の口から明るい若々しい声がした。
和彦は、女性をまじまじとみた。

そこには、先ほどの印象からほど遠い、少し小柄だが、朗らかで快活な感じのする若い女性が立っていた。
服装は、最初に見た通り、メイド喫茶のメイドの様に薄く露出部分が多いメイド服ではなく、露出部分が少ない重厚な、よく古い映画に出てくるような濃紺のメイド服を着ていた。
ただ、体形に合わせ仕立てられているのかぴったりとしており、グラマラスな胸、適度にくびれたウエスト、ロングスカート越しだが形の良いふっくらとしたヒップラインというシルエットが見て取れた。
また、髪は、ダークブラウンの少し長めのボブで、カチューシャのようなメイドキャップをつけていた。
顔は、小顔で少し釣り上がった目、形のいい鼻と薄い唇、眉などはきちんと手入れがされており、理知的な印象を持つ顔立ちの上、化粧も濃くなく、センスの良さが感じられた。
何よりも、洋服からのバラの香りだけではなく、若い香り立つような瑞々しい香りがしていた。

女性は、部屋の中央にたたずみ、呆然と女性のことを眺めている和彦のすぐ近くで歩みを止め、部屋を見渡し、また、手を横に広げたり、スカートの裾をつまんでひらめかしたり、本棚のガラスに映る自分の後姿をながめたりして自分の衣装をしげしげと観察していた。
「うん、なかなか良い趣味のようですね。」
女性は頷くと、和彦と目を合わせた。
「部屋も落ち着いていて、色合いも落ち着いているし、洋服の趣味もよろしいようで。」
そう言うと、今一度自分のメイド服を眺めた。
「え?
 だって、これってゲームの中だろ?」
和彦は不思議そうに尋ねた。

和彦には、ここがゲームの中とは到底思えなかった。
「ええ、ゲームですが、これはマスターが思った印象を具体化したものです。」
「え?
 マスター?
 僕のこと?」
女性は、笑みを浮かべて頷いた。

辛気臭い女

和彦は、女性から目を離すことが出来ず、上の空で返事をした。
また、同じ空間の中にいることで、女性の洋服からか、甘いフローラルな良い香りがしていて、和彦は何の香だろうと必死になって頭を巡らせていた。

女性は、謝辞を述べた後、美紀の説明したプロジェクトのこと、今回のモニター募集のことを再度、手短に説明した。
その後、政府公認ということを強調した後、プロフィールの確認と称し、和彦の名前、生年月日、身長、体重、顔写真がモニターに浮かび上がった。
「お間違いでなければ、『はい』と言ってください。」
「は、はい。」
和彦は女性の声で我に返った気がした。

はっきり言って、女性に夢中になっていて、話し半分で聞いていた気がしていた。
そんな和彦に気が付いていないのか、女性はにっこり笑った。
「ありがとうございます。
 これで、最初の手続きは終了です。
 最後に、ゲームに参加されるとき、ご自身の姿を年齢に合わせ選ぶことが出来ます。
 小日向様は、10代後半、20代、30代、40代、現在と5段階で選択されることが出来ます。
 お好きな年代を言っていただくと、その年代のお姿、お顔でゲームに参加できます。
また、背格好も、もう少し身長を高くとか、細身にとか変えることが可能でし、お顔も有名人に似せてということも可能です。
 お顔や背格好は、ゲームの度に選択し直すことが出来ますので、その時の気分で選んでいただけます。
 では早速、今回のお姿を選んでいただきます。
 先程、申し上げましたように、選択はすべて音声認識ですので、年代、格好を言っていただき、決まりましたら『確定』と言ってください。
 そうすると、程なくしてゲームがスタートします。
 また、ゲームのご説明は、ゲームが始まりましたら、コンシェルジュが出てきてご説明させていただきます。
 ですので、遊び方やご不明点がございましたら、そのコンシェルジュにお聞きください。」
「え?
 君じゃないの?」
和彦は思わず抗議の声を出した。

和彦の応対をしていた女性は、にこやかな笑顔を浮かべ、お辞儀をして消えていった。
「ちょっと待ってよ……。」
和彦は、複雑な思いを胸に抱いたが、取りあえずゲームを続けることにした。
そして、言われた通り、年代を言うと、モニター上にその年代の和彦の顔と体形が忠実に再現され、和彦は思わず舌を巻いた。
「なんか、何十年も見張られていたみたいだな……。」
そして、30代の自分を選択し、『確定』と言ってみた。

そして、今、書斎の中で見知らぬ女性と対峙することになっていた。
その女性は本棚に並んでいる古い蔵書の隙間から出てきたような、少し埃臭い匂いがしているようにで、また、どこか不健康で、服装も中世のような重厚なメイド服を着ていた。
「今、かび臭い匂いとか、辛気臭い女と思いませんでしたか?」
女性は、少し怒ったように言った。
「失礼ですが、この服は洗い立てで、薔薇の香りがするんですよ。
 それに、私は、正確な年齢は言えませんが、二十歳代で、若いんですよ。」
「え?
 そうなんだ。」
和彦はびっくりして言った。

『ようこそ』と言われた男

和彦は、荷物を開けながら、美紀と話した時に見せてもらった女の子のイラストを思い出し、(あの娘が出てくるのかな)と思わずひとりでに笑みをこぼしていた。
箱を開けると頭に被る電極らしきものがたくさんついているヘッドギアの様なものとバーチャルリアリティのゲームでよくある両目に合わせ筒形のようなゴーグル、ヘッドセット、それにケーブルテレビのチューナーのようなもの、卓上アンテナが出てきた。
解説書の通り機器をつなげ、電源を入れてみた。
チューナーの様な箱は、通電したのか、赤いランプが付き、小さなモニターのようなところに『READY FOR STARTUP』という文字が浮き上がった。

「運転準備完了?
 ま、いいか。
 そう言えば、Wi―Fiも使えるって言ってたっけ。」
そう言いながら、和彦は自分のスマートフォンを取り出し、説明書通りに設定をしてみた。
和彦は、スマートフォンを持っていたが、生活費に余裕がないため、スマートフォンの電話、通信料が一番安いプランにしていたので、少しインターネットをするとすぐにデータ量の上限を超え、使い辛らかった。
「これで、家にいる時は、ストレスなしにスマフォが使い放題かな。」

和彦は、それだけでもモニターになった甲斐があった気になっていた。
「でも、折角だから、ゲームもしなくっちゃ。
 そうしないと、すぐにモニター取り消しになっちゃうかもな。」
和彦は、説明書に描かれているようにヘッドギアの様なものを被り、ゴーグル、ヘッドセットを装着し、ゆったりした場所でと書かれている通り、布団を敷き、その上に横になった。

暫くすると、音楽が流れてきて、目の前にまるでモニターのような画面が映し出された。
画面はすぐに大きく広がり、和彦は本物のどこかのオフィスの窓口のようなところにいる感覚になった。
和彦は頭を回し、周りを見てみた。
そこは、この前美紀に案内されたインナーブレイン社の入口をくぐったところのようだった。
見回すと和彦の後ろにはビルの入口が、左右は商談が出来る応接セットが置かれ、全面ガラス張りとなっていて明るい日の光が差し込んでいた。
(やっぱり、インナーブレイン社だ)と和彦は感じたが、ただ違和感があったのは、その空間に和彦一人だったということだった。

「ようこそ、小日向様。
 私共の会社のプロジェクトに参加して頂き、感謝しております。」
和彦は急に声を掛けられ、びっくりしてその声の主の方を向いた。
いつの間にか窓口のところに、パンフレットに描かれた女性と言っても10代後半のような女性が、にこやかに微笑んでいた。
その女性は白い花柄のブラウスを着ていて、胸には『インナーブレイン社』を書かれたバッチを付けていた。
また、女性は和彦より小柄で、目鼻立ちがハッキリしている美人タイプで、ストレートのロングの黒髪が印象的だった。
何よりも、バーチャルであるはずなのに、まるで本物の人間と見間違える、というかどこから見ても和彦と同じ人間にしか見えず、また、彼女からは温かさも伝わってくるようだった。
さらに和彦のとどめを刺したのは、パンフレットの写真でも感じたが自分の初恋の女性にどことなく似ているところだった。

「少し、ご説明をしてよろしいでしょうか。」
「あっ、うん。
 どうぞ。」
「ありがとうございます。」
女性は受付で立ち上がり、手を前で合わせお辞儀をした。

誘う女~完全なる降伏

そんな和彦の仕草や視線を無視しているように田中は、近くの綺麗で1階がガラス張りで仲が良く見える建物の中に和彦を招き入れた。
1階は喫茶店のようで、外が良く見え開放感のある広いスペースだった。
そして、田中は和彦を窓際の商談スペースに案内した。
「今、コーヒーをお持ちします。」
珈琲はプラスチックの容器に入っていたが、とてもいい香りがした。
「改めて、ご挨拶をさせていただきます。
 私、インナーブレイン社の田中と申します。
 どうぞよろしくお願いいたします。」
そう言うと、田中は深々とおじぎをして和彦に名刺を渡した。
名刺にはインナーブレイン社営業部主任田中美紀と刷られていた。
美紀が珈琲を和彦に勧めながらインナーブレイン社とはどういう会社かということを説明し始めた。
インナーブレイン社はバーチャルリアリティを開発している会社で、その技術をあらゆる分野で利用できるように政府からも委託されているきちんとした会社で、決して怪しい会社ではないこと、今回、その政府のコンピュータが和彦を選んだことを説明した。

(なんで、政府のコンピューターが俺を選ぶのか?
 俺の個人情報は?
 あっ、この前、アイナンバーの写真付きカードを頼んだからかな。
 まあ、どうでもいいけど、この娘、スタイルいいな。
 まだ、20代だろうに、それなのに主任かぁ。)
田中がいろいろ説明している最中、和彦は美紀を見つめながら漠然と思った。
そして、美紀は、今まさに開発中のバーチャルリアリティのゲームのモニターになってくれと、話しをモニターの件に向けた。
その内容は、バーチャルリアリティの中で、人間はどういう行動をするのか等のサンプルを集めて、今後の開発の参考にしたい、そのために、ゲームという娯楽を提供するので是非参加してほしいと、熱く語っていた。
「いかがでしょうか、小日向様。
 今までのところで、何かご質問はありますか?」
「田中さん、年はいくつですか?」
(うげぇ、俺は何を聞いたんだ。
 初対面の女性に、しかも、一生懸命会社の話をしている娘に向かって…。)
「あっ…、い…や…。」
和彦は、恥ずかしさから顔を赤らめ、しどろもどろになっていた。
「え?
 私ですか?
 28歳になりますが、何か?」
美紀はこともなげに和彦の問いに答えた。
「あ…、いや、若そうに見えたので…。
 若いのに、主任かと感心して…。
 すっ、すみません。」
「まあ、ありがとうございます。」
そう言ってクスリと笑った美紀の唇は瑞々しく光って見え、年相応の若さを感じた。

「我が社は、男女関係なく機会を与えてくれるので、やりがいがあるんです。
 では、続けさせていただきます。」
美紀の誠実そうな説明や、一切、お金はかからなく、通信費も掛からないなど、徐々に和彦は前向きに考え始めた。
そして、ダメを押したのが、美紀の持ってきたパンフレットに描かれている女性だった。
その女性は、人間と間違えるようなバーチャル技術で作られたものと美紀は説明したが、どこか、和彦の昔の初恋相手に似ており、見れば見るほど甘酸っぱい気持ちがこみ上げてきた。
こういう女性がゲームに出てくるという一言で、和彦はモニターになることを承諾した。
プロフィール

電脳子猫@委員会

Author:電脳子猫@委員会
エロ、グロ、怖いのは苦手。
時代劇や明るくちょっとエッチなSF好きのコンピュータエンジニアです。
どこかで読んだこと、見たことがある?
そんなことも随所に出て来るかと思いますが、それもお楽しみとして。
あくまでもオリジナル小説を目指します。

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