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AI Killer

和彦たちがイリスを助け出す前の話。

チロルの撃った狙撃銃の弾丸とターニャのストライクイーグルの弾丸がチロルのいる位置とターニャたちのいる位置のちょうど中間地点で交差する。
その弾道から相打ちは必至の状況だった。
和彦はそれを本能的に感じ、ターニャに覆いかぶさって守ろうとした。
ターニャもきっと和彦がそういう行動に出るだろうと思い、和彦が覆いかぶさって視界が見えなくなる瞬間にほんの数ミリ、ストライクイーグルの銃身をずらすと、続けて2発、ストライクイーグルの引金を弾いた。

初弾が綺麗にチロルの眉間にめり込むと、チロルは信じられないという顔をして霧散し、ターニャは、和彦が覆いかぶさる前に、自分の撃った銃弾がチロルの眉間を捕らえたのを感じていた。
和彦の方は、ターニャに覆いかぶさり、チロルの弾丸が自分のどこかに当たるだろうと身体を固くしたが、チロルの弾丸が和彦の身体をかすり、壁にめり込む衝撃を感じた。
「外した…?」
和彦は、信じられないというように言葉を漏らした。

「まったく、マスターったら。
 弾丸に当たったらどうするつもりだったんですか?
 あんなのが身体のどこかに命中したら、生身の身体も持ちませんよ。」
和彦の身体に下敷きになっていたターニャの怒った声が聞えた。
「ターニャ、まさか…。」
和彦は、ターニャが撃った2発目3発目がチロルに向けてではなく、チロルの撃った銃弾に向けたものだったものだと気が付いた。
ターニャの撃った2発目3発目は、チロルの撃った弾丸をギリギリにかすめたが、その影響で数ミリ方向が変り、直撃を免れていた。

和彦はあ然としながら、ターニャの上から身体をずらし、起き上がった。
ターニャも、和彦の重みがなくなると、その場で起き上がって、和彦の方を向いた。
そのターニャの顔は怒った顔ではなく、笑顔だったが眼からは涙が零れていた。
「なんで、私たちAIにそんなことするんです?
 マスターと違って私たちは後で復活するんですよ?」
「だって、ターニャが撃たれるのをこれ以上見たくなくて…。」
和彦はしどろもどろになっていた。
「まったく…、だから…、好き。」
ターニャは残った右手で和彦の頭に手を回すと、グイッと自分の方に和彦を抱き寄せ、その頬にキスをした。

「ターニャ…。」
「でも、無茶しちゃ嫌ですよ。
 私も、マスターが怪我するのを見たくないし、今度そんなことをしたら、自分自身を消してしまいますからね。」
ターニャが優しい声で言う。
「わかった、気を付ける。」
(この人は、そう言っても、何度でもやるわね。
 本当に、優しい人。)
ターニャは和彦の弁解を聞きながらそう思った。

「さあ、イリスとナディアのところに行かなくっちゃ。
 二人とも危険な状況です。」
ターニャは名残惜しそうに腕を離すと、真顔に戻って言った。
「そんなに危ないのか?」
「ええ、特にイリスは。
 行きましょう。」
そう言ってターニャは立ち上ろうとしたが、その場で崩れ落ちそうになり、和彦は慌ててターニャを抱き留めた。
「LP、APともにほとんどないじゃないか。」
和彦はゴーグルでターニャのLP、APの状態を見ると、二つとも殆どゼロに近かった。
ただでさえ、スネークの狙撃に大量にLP、APを消費した上に飛来する弾丸の方向を変えた、その計算などで力を使い果たしていた。

車のエンジンだって力を入れると熱くなるし、コンピュータだって計算で負荷をかけると電力を使うし、熱くなるしと思いながら、スネークに狙いを付けている時のターニャの身体が熱くなっていたのを思い出した。
「私、ここで待っていますので、二人を早く…あっ!」
和彦はターニャの前にまわると背中を向けてしゃがみ込み、ターニャの太ももの辺りを逆手でつかみ手繰り寄せる。
ターニャはバランスを崩し、和彦の背中にもたれ掛かると、和彦はターニャを背負ったまま立ち上がった。

「マスター…。」
「俺がターニャを置いて行くわけないだろう。」
「マスター、“僕”じゃない…。」
「え?」
「ううん、何でもないです。」
ターニャは幸せそうな顔をして和彦の背中に頬を寄せた。
「さあ、行くか。」
「はーい。」

二人が建物から出ると、ナディアが飛び込んだ建物の外に、しゃがんで中を窺っている男が二人見えた。
「マスター…。」
ターニャが目ざとく見つけると小声で和彦に囁く。
「うん、わかっている。」
和彦はそう答えると、ターニャを背負ったまま、そっとTM55を構える。
すると一人の男が、金属の筒のようなものを建物の中に投げ込もうとしているのが見えた。
「マスター、手榴弾です。」
「ああ。」

和彦は返事をすると、男が手榴弾を持って投げようと振り上げた腕に目掛けTM55の引金を弾いた。
“ドゥ”という低く重たい発射音を残し、銃弾がTM55からはじき出されると真っ直ぐ手榴弾を振り上げている男の腕を吹きとばした。
そして吹きとばされた腕から手榴弾がポトリと男たちの足元に転がり、男たちが何やら騒ぐと一瞬閃光に包まれその場で手榴弾が爆発し、二人の男は霧散した。

爆発が収まると建物の中から外を窺うように慎重にナディアが顔を出し、和彦たちを見ると安どのため息をつき、外に出て来た。
そして、和彦におぶされているターニャを見ると、驚いた顔をした。
「ちょっと、なんでAIがリアルに、マスターにおんぶされているの?」
「うん、うちのマスターは、こういう人。」
ターニャはあ然としているナディアを見て笑顔で答えた。
「し、信じられない…。」
ナディアは自分の思考回路に何かが芽生えた気がした。

「それより、イリスを。
 かなり危険な状態にあるようです。」
ターニャは顔を険しくする。
「わかった。
 早く行こう。
 ナディアも行くよ。」
「は…い。」
和彦はターニャを背負ったままイリスを心配してか、顔をこわばらせ足早にイリスの飛び込んだ建物の方に向かって行った。
ナディアも遅れまいと足早に和彦の後を追った。

建物に入ると、イリスがいないか、どこかに痕跡がないかを和彦はあたりをせわしなく見渡していた。
「マスター、落ち着いて。
 イリスは奥の部屋です。
 それに部屋の前には見張りが立って…。
 マ、マスター!!」
和彦はターニャを背中から降ろすと、ターニャの示した方に血相を変えて走って行った。

「ナディア、マスターのフォローをお願い!」
ターニャは立ち上ると、まだ、少しおぼつかない足取りで和彦の後を追い始めた。
「わかったわ。
 大丈夫だから、ゆっくり来なさい。」
ナディアは必至の形相で和彦について行こうとしているターニャに話しかけたが、ターニャの耳には聞えていないようだった。

ナディアが和彦の後を追って奥の部屋に通じる通路に行くと、すでに和彦は見張りに組みつき、後ろから首を羽交い絞め、スリーパーフォールドのように締め落としていたところだった。
ナディアは、予備動作なくナイフを投げると、眉間に深々と刺さり、見張りの男は霧散した。
「マスター、落ち着いてって、言っている先から!」
ナディアは和彦を落ち着かせようとしたが、和彦はその声が耳に入っておらず、TM55を握ると部屋の中に突入していた。

「と言うことなのよ。」
ターニャは、落ち着きを取り戻した和彦とイリスの前で、事の顛末を説明していた。
「イリス、痛くないか?」
和彦は、縛られて赤く腫れているイリスの口元と、首筋の咬まれたためにできた赤い痣を見ていった。
イリスは、和彦の右腕をしっかりと抱えていた。

「うふ。
 大丈夫ですよ。
 ほら。」
イリスは小さく詠唱すると、身体が光り、痛々しい跡もきれいに消えていた。
「それと。」
今度は、破かれたブラウスやズボン、上着も綺麗になっていた。

「次は、ターニャね。」
そう言うと、同じように小さく斉唱し、魔法の杖をターニャに向けると、LP,APともに復活し、銃弾を受けて破けていた衣服も綺麗に元通りになった。
「でも、その腕はごめんね。」
イリスがすまなそうな顔をしてターニャに謝った。
イリスの魔法でも、ターニャの左手を復活させることは出来なかった。
「ううん、大丈夫よ。
 左腕だけ先にゲームアウトしちゃったからね。
 コマンダールームに戻ってリフレッシュすれば元に戻るから。」
「そうなんだ。」
横で聞いていた和彦は安どのため息をついて、その場でしゃがみ込んだ。

イリスも一緒にしゃがみ込んで嬉しそうに和彦の顔を見つめていた。
「マスター、何言っているんですか。
 私たちは、傷を負っても、ゲームアウトすればリフレッシュして元に戻るって、最初に説明したんじゃないですか。」
ターニャが和彦の反応を見て面白そうに言った。
「そうだったな。」
和彦は面目なさそうに、しゃがみ込んだまま頭を掻いていた。

「次は、ナディアね。」
イリスがナディアを見上げるようにして言うと、ナディアは手を横に振った。
「私は大丈夫。
 怪我も服も破けていないから。」
「でも、首筋に噛まれた跡が赤くなっているわ。」
そう言うとイリスは同じように短く詠唱し、魔法の杖をナディアに向けると、ナディアの身体はほんのりと明るく光ると、首筋の赤い腫れも綺麗になっていった。
「温かい。」
ナディアは身体が温かくなるのを感じ、心が落ち着くようだった。

そして改めてしゃがみ込んで頭を掻いている和彦を見た。
(このマスターは、私たちAIのことでも必死になって心配し、必死になって戦ってくれる。
 しかも、AIを素手で倒すなんて。
 この人は一体何者なの?)
ナディアは自分でも気が付かず、頬を赤く染めて和彦を見ていた。
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ワルキューレの騎行

イリスは噛みつきと突き上げの波状攻撃で、だんだん頭の中が混乱し始めていた。
常識的に、噛みつきも突き上げも効果がないとわかれば止むはずなのが、それでも止めることなく続けて来る非常識さに、プログラムが対処できなくなっていたのだった。
「おい、少し柔らかくなってきたぜ。」
ジーニョが噛みつく合間に声を上げる。
「そろそろプログラムが暴走し始めて、用をなさなくなってきているんだろう。
もう少しだな。」
スネークは突き上げるたびに顔をのけぞらすイリスを残忍な笑い顔で見下ろしていた。
(だ…め…、こんなに…イレギュラーなことを…続けられたら…、メモリーが…CPUが暴走する…。
 マスター…、助けて…。
 もう…無理かも…
 エンジニア…
 こら…エンジニア…助けなさい…)
イリスの目から涙が零れた。

和彦たちがいるダンジョンと全く異なった空間で、コンピュータ機器の並んだ部屋で、警報が鳴り響いていた。
そして、アラートを出しているモニターの前で、白衣を着た女性が腕組みをしてモニターに映し出されている数字を見ていた。
「イリス…。
 あなたをみすみす、あいつらに渡すわけにはいかないの。
 可哀想だけど、消去させてもらうわ。」
そう呟くと、キーボードで何かを打ち込むと、最期にエンターキーを押そうとする手が震え、まるで押すのを躊躇しているようだった。
「でも、仕方ないか…。」
そう言って、エンターキーの上に置いた指に力を入れようとして時、違うモニターがいきなり点滅し、「ワルキューレの騎行」が鳴り響き、何かを知らせてきた。
「え?」
白衣を着た女性は、エンターキーから指を外し、大騒ぎをしているモニターを凝視した。

「イリス!!」
和彦は、イリスの名前を叫びながら部屋に飛び込むように入ってくると、ピストン運動を繰り返しているスネークの顔をTM55の銃座で思いっきり殴りつけた。
不意を喰らったスネークは、銃座で殴りつけられると2メートル先の壁に叩きつけられた。
「な、なんだ?」
エリオットは噛むのをやめて、スネークのいた方に振り返ると、眉間に何かが刺さった。
刺さったのは、ナディアの投げたナイフで、眉間に深々と刺さると、あっという間に霧散した。

「こ、このぉ。」
「あ、お前はナディア!」
ジーニョとアントニオもイリスを噛むのをやめ振り返る。
二人とも目の前に冷たく光る刃物が見えたとわかるかわからぬうちに、顔を四等分に切られ霧散した。
刃物は、ナディアの鉤爪で、ナディアは素早く二人に近づくと両手を広げ、そして交差させるように手を振り、ジーニョとアントニオを切り刻んでいた。

「マスター、あいつ、片手がない!
アオハをいじめた奴だわ。」
ターニャが絶叫をあげる。
「お、お前…。」
和彦に殴り飛ばされたスネークが顔を触りながら、立ち上がる。
「ナディアもターニャも手を出すなよ。」
和彦は二人に背を向けながら低い声を出した。
その声と和彦の後姿は全身から殺気が漲っているようで、ターニャもナディアも思わずその場で立ちすくんだ。
「なんだ、お前。
 俺と差しでやろうって言うのか。
 女の陰で震えることしかできない男が。」
スネークは嘲笑しながら、和彦を罵倒した。
そして、下半身から突き出している棒状のものを手でつかむと、ボキッと言う音とともにむしり取ると、それを片手で持って身構えた。

(なんなの、あれは)
ターニャは声も出せずに和彦とスネークを見ていた。
スネークは、余裕しゃくしゃくの顔をして、片手で持った棒をブンブンと上下に振りながら和彦に近づいてくる。
「これを喰らって、脳味噌まき散らして死にやがれ。」
スネークは棒状のものを大きく振りかざすと、和彦の頭めがけて振り下ろした。
「マスター、危ない!」
ターニャとナディアが声を揃えて悲鳴に似た声を上げる。
和彦はほんの数ミリ、後ろに下がると、スネークの棒状の武器が和彦の顔をかすめるように、しかし空振りして地面を思いっきり叩いた。
ゴツと鈍い音がして石畳の床の石が真二つに破壊される。

「何て破壊力なの。
 あれをまともに喰らったら、マスターは大怪我どころの騒ぎじゃなくなるわ」
ナディアは、ナイフを、ターニャはラウンドイーグルを構えた。
「手を出すんじゃない!!」
再び、怒気をはらんだ和彦の声が二人を制する。
「助けてもらわなくていいの~?」
スネークはニヤニヤ笑いながら、再び棒状の武器を振り上げる。
その瞬間、和彦はスネークとの間合いを詰めると、スネークの腹部に力を込めた右の拳をめり込ませる。
「けっけっけ、お前ごときに殴られても、利きゃしねえんだよ。」
スネークはさらに笑って見せた。

「ちょっと、スネークの顔。」
ナディアが驚愕の声を上げる。
平気だと言ったスネークの顔が見る見る赤くなると、鼻から血が垂れ、振り上げた手がワナワナと震え、持っていた棒状のものを落とした。
「な、なに…。」
スネークは自分の身体に起きた異常に信じられないという顔をした。
「これは、アオハの分。」
和彦は、右手を引くと、今度は左の拳を力いっぱいスネークの腹部にめり込ませる。
「ぐぇえ。」
スネークはたまらず上半身を折ると、丁度、和彦の拳の高さに顔が来た。

「これはイリスの分だ。」
そう言うと和彦は右の拳を力いっぱいスネークの顔の中心にめり込ませた。
グシャッという鈍い音とともにスネークは後ろ向きのまま地面に後頭部を激突させた。
「す、凄い。
 AIを素手で?!
 いくらリアルとして強化されているといっても、出来っこないわよ。
 しかも、スネークは一応Sクラスよ…。」
ナディアは目を丸くして和彦を見つめていた。
ターニャはその斜め後ろで含み笑いをしていた。
「な、なんで、素手で俺を…。
 お前は、一体…。
 “J”…」
何かを言おうとしたスネークの顔に四本のナイフが突き刺さるのと、ターンという銃声とともに、ラウンドイーグルの銃弾がスネークの眉間を吹きとばした。
スネークは二、三度、身体を痙攣させると霧散した。
和彦は、スネークが霧散した後をじっと見ていた。

「イリス!
 ねえ、イリスったら、しっかりしなさい!!」
ターニャの悲鳴に似た声で和彦は我に返ったようにイリスが縛り付けられているベッドの方を振り返った。
イリスの口を塞いでいたタオルと口の中に詰められていたボール、そして結わかれていた手はターニャとナディアによって取り払われていた。
イリスの顔は生気を失い目は見開いていたが表情が無かった。
その目からは光が消え、灰色に濁った瞳が和彦を見ていたが意識が無いのは明白だった。
そして目じりから流れた涙の後が痛々しかった。
「イ…リ…ス…。
 イリスー!」
和彦はイリスの名前を呼びながらイリスの傍らに駆け寄った。

イリスの口の周りはきつく縛られていたせいか赤く腫れていて、首筋から首回りに掛けては何か所も噛まれた跡が赤くなっていた。
胴体はマネキン人形のように曲線だけで女性の部分は何もなく“つるっ”としていて、そっと手で触れるとカチカチに硬かった。
胸のあたりは、何度も噛まれたのか、男の唾液で濡れていたが堅い身体のせいか首筋とは違い赤くなっている部分はなかった。
「これが外敵から身を守り、相手に邪な考えを持たせなくするための“青少年育成プログラム”です。
 このおかげで、イリスはウィルスの注入を寸でのところまで耐えることができました。」
ターニャの説明に和彦は頷くとイリスの頭と背中に手を回し、上半身を抱き起すと、イリスの顔を自分の胸に埋めるように抱きしめた。

イリスの身体は固く冷たく、いつものような温かで柔らかい身体とは訳が違っていた。
「イリス、もう大丈夫だからな。
 遅くなってごめん。
 だから目を覚ましてくれよな。」
和彦はイリスを抱きしめながら、いつの間にか目から涙を流していた。
(このマスターは、私たちAIのために涙を流すんだ…)
ナディアは、胸の奥で何かの感情が芽生える気がして、和彦のことをじっと見ていた。

「さてと。」
モニターをじっと見つめていた白衣を纏った女性は、別のモニターの方に移動していた。
そこは、先ほどイリスを消去するコマンドを入力したモニターの方だった。
女性はブレークキーでコマンドを消去すると、新たに違うコマンドを打ち込み、エンターキーを躊躇することなく叩いた。
「青少年育成プログラム“鉄の女(改)”を解除します。
 3,2,1…解除完了。」
コンピュータの声がモニターの横のスピーカーから流れ、モニターには解除を閉める文字が流れていた。
「マスターさん、お願いしますね。」
女性は、和彦たちが映っているモニターを見て呟いた。

和彦の腕の中で、イリスは一瞬光に包まれたかと思うと、カチカチで冷たかった胴体が温かく柔らかいものに変って行った。
そして体には女性特有のものが姿を現す。
「イリス?」
しかし、イリスは変らずに何も言わなかった。
「マスター、イリスはイレギュラーオペレーションのためにハングアウトしています。
イリスに息を吹き込んでください。」
ターニャの言うことを聞いてから、和彦は右手人差し指で自分の唇を差した後に、イリスの唇を指さした。
ターニャは和彦のその仕草を見て、黙って頷く。
それを確認すると和彦は躊躇なくイリスの唇に自分の唇を重ね、そっと息を吹き込んだ。

「強制介入プログラムを検知。
 強制介入プログラムの起動を確認。
 強制介入プログラムによるシステムのリブートまで残り5秒。
 5、4、3、2、1、システムのシャットダウンを開始」
白衣の女性の前のスピーカーからコンピュータの声が聞えた。
「シャットダウン完了。
 続けて再起動のコマンドを投入。
 投入受付完了。
 再起動実行。」

和彦の腕の中でイリスは目を閉じると、全ての力が抜け切ったように和彦に身体を委ねると、コトンと顔を和彦の胸に埋め、大人しくなった。
和彦は、いきなり脱力したイリスを心配になって耳元で「イリス」と名前を呼び、抱きしめていた腕に力を入れた。
するとイリスの身体が一瞬、ぶるっと震えた。
「イリス?」
和彦は何が起こったか確認する様にイリスの顔を覗き込んだ。
するとイリスはうっすらと目を開けた。
その目にはこげ茶色の瞳と、光が戻っていた。

「マ…ス…ター…。
 マス…ター」
イリスは弱々しい声を出したが、徐々にしっかりした声に変わっていた。
「マスター、マスター」
しっかりした声で和彦の名前を叫ぶと、自分から和彦の背中に腕を回し、抱きついて来た。
「イリス!」
和彦も夢中になって、イリスを抱きしめた。

イレギュラー・オペレーション

ブチブチと、ボタンがはじけ飛び、衣が破ける音が木霊し、イリスの肩から胸にかけて素肌が露出した。
「へい、アントニオ、お前は右な。
 俺は左を頂く。」
「ジーニョ、俺は?」
傍で見ていた男の一人が進み出る。
「エリオット、お前はあとでマンタと一緒に楽しませてやるよ。」
「ええー、また後?
 たまには、最初に注入するのをやりたいな。
 スネークの兄貴が言っていたけど自分のウィルスを入れるのって、すげー気持ちいいんだろ?」
「だめだ、お前たちはあとだ。
 それに、この前なんか、それでも楽しんでたじゃないか。」
「スネーク、いいんですかい?
 俺らが最初で。」
ジーニョが、スネークの方を見るが、スネークは興味なさそうにそっぽを向いていた。
「じゃあ、遠慮なく。」

「…」
イリスはじっと話の内容を聞いていた。
そして、自分がこれから何をされるのか薄々わかってきた。
(こいつら、私にウィルスを注入するつもりだ)
しかし、声も出ず、指も動かせない状態では何もできなかった。
「さてと」
そう言って男が二人、ベッドに上がり、二人で右と左に分かれ左右からイリスの首の付け根の辺りに顔を近づけて来る。
イリスは頭を振って必死に抵抗するが、男たちに頭を摑まれ身動きが取れなくなった。

「観念しなよ、けっけっけ。」
「ほんと、近くで見るといい女だな。
 いただきます。」
ニヤニヤ笑った男の口は犬歯の部分の上下の歯が牙のように鋭くとがっていた。
そしてイリスは、二人の息を首筋に感じると、噛みつかれ、激痛に襲われる。
「%#$@」
しかし、すぐに二人はイリスから離れた。
「おい、どうしたんだ。」
スネークがジーニョとアントニオにイライラしたような声で言った。
「いえ、牙が通らないんです。」
「そう、文字通り、歯が立たないって言うんですか。
 固くて噛めないんですよ。」
イリスは、ポリマーの効果だと感じた。
(弾丸だけでなく、噛みつきにも有効なのね)

「ち、やっぱり、何か付けているな。
 取っている時間がないから、裸にひん剥いて付いていないところを探せ。
 下着の下なんか付けてないはずだ。」
(ちょっと、なんでわかるの?)
スネークの言うことが当たっていたのでイリスは呆然とした。
するとすぐにズボンに男の手がかかり、脱がせようとしているのを感じ、イリスは足をばたつかせて抵抗したが、三人がかりで抑えつけられ、抵抗虚しくズボンを剥がされた。
ベッドの上のイリスは、上半身は上着が広げられ、ブラウスが破かれ、胸に付けている黒いタンクトップのようなインナーと、下半身は黒いホットパンツのようなインナーだけになっていた。

「くぅ、いい身体してんじゃねえか。」
「いいから、早く、下着も引っ剥がせ。」
ジーニョがイリスの上半身のインナーに、アントニオが下半身のインナーに手をかけ、一気に引きちぎった。
「げ、何だこりゃ?」
男たちは、インナーの下のイリスの身体を見て驚いた声を上げた。
イリスの胸の辺りと腰から足の付け根に掛けて、本来なら女性の悩ましい曲線が目に入るところが、今見下ろしているイリスの身体はまるで裸のマネキンのように曲線はあるが何もなかった。

ジーニョが、イリスの胸と思われるところを触ると、まるで金属のように固くひんやりしていた。
「これが、噂に聞く青少年育成プログラムってやつか。」
ジーニョとアントニオを押しのけスネークがまじまじとイリスの裸を見下ろした。
「スネーク、どうしますか?
 歯も立たないし、そのなんとかって言うプログラムが作動していちゃ、なんにもできませんぜ。」
ジーニョが悔しそうな顔をしてイリスを見る。
(ざまあみなさい。
 私には、何にも出来ないわよ)
イリスは内心ほっとした。

「こいつ、この女、勝ち誇った顔してまっせ。」
アントニオが横から口を挟む。
「スネーク…」
ジーニョたちから声をかけられても、スネークは無言でイリスを見下ろしていた。
スネークはイリスに何か仕掛けがしてあると予想していたので、先にジーニョやアントニオにイリスを襲わせていた。
そして、仕掛けが全てわかり、その打開策を考えていたのだった。
少しして、スネークはいきなり自分のズボンと下着を降ろし股間の辺りから生えている、黒色の尖った禍々しい30センチほどの棒状のものを露出した。
「おい、エリオット、手を貸せ。」
「へい。」
エリオットは何をするのかわかったように、スネークの左側にまわりイリスの右脚を掴む。
スネークは右手でイリスの左脚を掴むと、すこし持ち上げるようにしてから、イリスの両脚を左右に開かせた。
イリスは激しく抵抗したが、力負けしてどうしようもできなかった。

スネークはそのままイリスの腰の下から近づくと、女性の中心があると思われる部分に自分の股間から生えている棒状のものを“ズン”と突き刺す。
「#%」
イリスは下から突き上げられるような衝撃で顔をのけぞらせる。
しかし、イリスの青少年育成プログラムは強力で、スネークのそれをはじきかえした。
「スネーク、いくらお前の禍々しい得物でも、駄目だろう。」
ジーニョが呆れ顔で言う。
しかし、弾かれてもスネークは再びイリスに棒状のものを突き刺す。
「おい、お前たちは、噛みつきまくれ。
エリオットも噛む方にまわれ。
 いいか、ジーニョとアントニオはこいつの胸の辺りを、エリオットは首の辺りを、噛みつき続けろ。」
「え?」
「所詮、プログラムだ。
 イレギュラーなことを続ければ、その内、暴走して防御プログラムが駄目になるだろうさ。
 “J”が言ってたけど、技術的にはいまいちらしいから、プログラムが駄目になったら、そこからお楽しみさ。」

そう言いながら、スネークは弾かれるのをお構いなしに突き刺し続ける。
「わかったよ。」
「じゃあ、やるか。」
そう言って三人は配置につくと口開け、牙を露出する。
(ちょっと、やめて)
イリスも、続けられたらいつまでも持つのか自信がなかった。
(電猫エンジニア、あなたを信じているからね。
 うっ)
男たちは一心不乱に噛みつき始め、イリスは噛みつかれた痛みと、下から突き上げて来る衝撃に必死に耐えていた。

一方、手榴弾から逃げ、イリスと別の建物に転がり込んだナディアは素早く身を起こし、身構えていた。
するとイリスの時と同じように、暗がりに潜んでいたのか五人の男が飛びかかって来た。
一人はナディアの右腕、一人は左腕、また、一人は右脚、一人は左脚、最期の一人はナディアの腹部にタックルする様に向かってきて、そのままナディアを壁に押し付けた。
しかし、ナディアの両方の腕を掴んでいたはずの男たちは、自分の腕がいつの間にか手首から無くなっているのに気が付いた。
「へ?」
鋭利な刃物で瞬間的に切られたのか、痛みも感じず、ただあ然と無くなった両手を見ていると、次に見ている風景が左右に離れていき、霧散していった。

ナディアの両手には、冷たい氷のような輝きを見せる鉤爪が付いていた。
ナディアは男たちに腕を掴まれる前に鉤爪を装着し、何も知らない男たちは、その鉤爪の鋭利な刃を自分から握り、自ら切り落としていたのだった。
そして、その男たちの頭上から鉤爪を振り降ろすと、男たちは真二つに切れ霧散していった。
そして、腰に取りついている男に攻撃を加えようとした時、真上の天井に潜んでいたのか、男が三人、真っ逆さまにナディアに向かって落ちて来た。
男たちはSクラスのナディアの力を熟知していて、正攻法では倒せないため、ある程度の犠牲を覚悟し、ナディアの動きを止めて、その隙を見てナディアに噛みつき、ウィルスを注入しようと目論んでいた。

ナディアの方はいきなり五人の男に襲われたため、頭上の注意を疎かにしていた。
「し、しまった。」
それでも反射的に落ちて来る男二人を鉤爪で霧散させたが、最期の一人がナディアの首元に取りつき襟をつかみ引っ張って首の付け根を露出させると、迷うことなく禍々しい牙をナディアの綺麗な肌に突き刺した。
「くぅ」
咬まれた首筋に痛みが走り、声を漏らしたが不思議とウィルスが体に入ってくる感覚はなかった。

ナディアに噛みついた男は、重力に従って、どさりと音を立てナディアの前にしゃがみ込んだが、口を押え、信じられないという顔をして、ナディアを見上げた。
ナディアは、その隙を見逃さず、鉤爪で男の首を跳ね、霧散させる。
そして、返す刀で腰に取りついている男の胴体を切り裂き霧散させる。
「ひぃ、やっぱ、勝てない。」
「に、逃げろ。」
ナディアの脚を掴んでいた二人の男は、手を離すと脱兎のごとくナディアに背を向けて走って逃げだした。
しかし、ナディアは羽織っているマントのようなものをひらりとマントをなびかせ、ホットパンツのように短いズボンから露出している両方の太ももに結んでいたナイフフォルダーからナイフを撫でるように掴むと、二人の後頭部めがけて手を振った。

ナディアの投げたナイフは狙いを外さず二人の後頭部に吸い込まれ霧散していった。
(やったか。
でも、なんで?
 咬まれたのにウィルスが入らなかった?
 ポリマーを塗っていたせい?)
ナディアは、冷静に分析し、ポリマーが男の牙を通して身体にウィルスが入るのを阻止したと結論付けた。
(あの時、マスターがきちんと塗ってくれたから助かったんだ)
和彦はナディアの体に触り、興奮していたが、ポリマーを丁寧に、きちんと塗ってくれていたのを思い出した。

(しかし、あの時のマスターの顔。
 鼻の下を伸ばし、間抜け面していたのに、目は塗り忘れや塗り斑がないか、きちんとチェックしていたわね。
 まったく、どういう人なのかしら。)
そう思っていると不覚にも笑みが自然と漏れていた。
しかし、建物の入口の近くで、二人の男が息をひそめて隠れているのに気が付いていなかった。

「ほら、見ろ。
 言わんこっちゃない。
 相手はSクラスで、戦闘マシーンのナディアだぜ。
 10人、20人で向かって行っても、歯が立つわけないよ。
 そんなバケモンを、ウィルスでこっちに引きこめってか。
 それに、見たか?
 あいつ、牙を跳ね返したぜ。」
「ああ、見た。
 たしかに、トルチェが首筋に噛みついたのに、あいつ、全く平気だよな。
 どうやったら、ウィルスを注入できるんだ?」
「なあ、やっぱり無傷で取っ捕まえるのは無理だから、こいつを使おうぜ。」
男の一人が筒状の手榴弾らしきものを取り出した。
「これ、殺傷力が通常の倍はあるんだぜ。」
「でもさ、殺したら、うちらが殺されるんじゃねえか?」
男は険しい顔をした。

「バカか。
 ナディアに向かって行っても殺されるし、手ぶらで逃げ帰っても殺されるだろ。
 こいつで身動きできないほどダメージを与えて、それでウィルスを注入して、連れて帰るしかないだろう?」
「死んだらどうする?」
「あの化け物が、死ぬもんか。
 死んだらナディアに消された奴らが相打ちでって言えばいいじゃん。」
「じゃあ、念のために、俺はマシンガンでぶっ放して動きを止めるから、お前はちゃんと投げろよ。」
「ああ、わかってるって。」
会話が終わると、一人が手榴弾を掴み、一人がマシンガンを持って、近づいてくるナディアを、息をひそめて待ち伏せしていた。
(早くマスターたちに合流しなくっちゃ。
 イリスは大丈夫かしら)
男たちの企みに気が付かないナディアは、和彦たちのことを心配しながら建物の入口に近づいて行った。

最低の敵

ターニャは、チロルが狙撃した場所から攻略方法を説明する。
「マスター、あの狙撃手をこちらから狙撃するには、相手が見えるところ、つまり相手からも見えるところに出なければいけません。
 幸い、あそこならストライクイーグルの射程圏内です。
 ですので、勝負はどちらが先に引金を引くか、外したら負けです。」
「同時だったら?」
「同時だったら…。
 恐らく相手の腕でしたら相打ちで引き分けですね。」
「わかった。
 じゃあ、僕が…。」
「残念でした。
 ストライクイーグルは、私専用の武器ですので、いくらマスターでも使いこなせません。」
和彦が、代わりに自分がストライクイーグルで狙撃すると言おうとしたのを、ターニャが制した。

「ですので、こればっかりは私のお仕事です。」
「…わかった。」
ターニャに言われ、自分のTM55では狙撃が出来なく、和彦は渋々頷いた。
「じゃあ、やりますよ。」
ターニャはそう言うと窓際に身体をずらし、窓枠に銃身を乗せ、チロルが潜む建物の屋上に狙いをつける。
(やはり、片手だと銃身がぶれるのと、衝撃で狙いが狂うわね…)
ターニャがそう思ったとき、ふわりと和彦がターニャに覆いかぶさり、両手をストライクイーグルの銃身に添えた。

「マスター、何をやっているんですか?!」
ターニャはきつい声で和彦に文句を言う。
「そう怒るなって。
 俺がサポートすれば、銃身も安定するだろう。
それに、俺がターニャを押さえるから、それで発射時の衝撃も耐えられ、狙いがぶれないだろ。」
「そうですが、それだとマスターも相手の銃弾で怪我をするかもしれません。」
「大丈夫、俺はターニャの腕を信じているさ。」
「マスター、また、ご自分を“俺”と言ってる。」
ターニャには、だんだんと和彦の“俺”と“僕”の使い分けがわかって来た気がした。
「それより、ターニャ。
 もう、相手から見えているだろ。
 早く体制を整えて。」
「はい。」

「なんだ、女の方のスナイパーは生きていたのか。
 一丁前に片手で俺と張り合うってか。
 アーサーに生かして連れて帰れと言われたが、スナイパーは俺一人いれば十分だろ。
 残念だが女のスナイパーは必要なし…、ん?
 何だ?
 男も一緒に銃を押さえているのか。
 そんなんで、俺と張り合うのかよ。
 馬鹿な奴ら。」
チロルは照準器の中のターニャと和彦を見て、“くっくっく”と笑い始めた。
「じゃあ、二人まとめて、仕留めてやるよ。」
そう言いながら、射撃の体勢を取り、慎重に和彦とターニャの眉間の辺りに照準を合わせ始める。

「ターニャ、奴は見えるか?」
「はい、銃と頭しか見えませんが、十分です。
相手も私たちに照準を合わせています。」
「わかった。
 ターニャにすべて任せる。」
「はい、ありがとうございます。」
(折角、マスターにバージョンアップさせてもらったんだ。
 無駄になんてできないわ。
 メモリーを戦闘用にマックスにして、全ての情報を集めて。
 角度、距離、風、湿度、温度、太陽の位置、太陽フレア―の時間、全て集めて。)

ターニャのプログラムは、以前はその時その時でメモリーのアロケーションをして情報を蓄積し、メモリーが足りない場合、不足分を予想して、追加分をアロケーションするというメモリー消費に無駄のない省エネルギーの作りだった。
しかし、それではメモリーの断片化やアロケーションに時間がかかり、素早く行動することが出来なかった。
それを和彦が、状況に応じてメモリーのアロケーション量を最初にマックスで取るように変更したため、状況、特に狙撃など大量のデータが必要な場合は、あらかじめ、それようにメモリーを大きく取り、処理時間を驚くほどに向上させていた。
処理時間が早いということはデータの解析速度も速く、より正確な結果を求めることが出来ていた。
今のターニャは、狙撃に必要なデータを瞬時に解析し、目標の位置、角度などの答えを導きだしていた。

(よし、これでOKだわ)
「マスター、ほんの少しだけそのままで銃身を持つ手に力を入れてください。」
「こうか?」
和彦は微妙な感じで力を入れると、銃身が0.3ミリほど持ち上がった。
「それで結構です。」
和彦には、銃撃される時の嫌な感じが強くなっていた。
そして、身体の下ではターニャの身体が緊張しているせいか(実際は、データの解析や計算でだが)、熱くなり、ターニャの香りが強くなってきているのを感じた。
(この香り、たまらないなぁ。)
そう思った時、例の嫌な感じ、気持の悪さが強く和彦を襲ってきた。

(来るな)
和彦がそう思うと、和彦の身体の下でターニャが冷静かつ小さな声を上げる。
「マスター、行きます。」
ターニャがそう呟くと、ターンというストライクイーグル独特の乾いた銃声が鳴り響き、発砲の反動がターニャの身体を通して和彦に伝わって来た。
和彦はターニャが引金を弾くとほぼ同時にチロルの狙撃銃が光ったのが見えていた。

そして、射撃が終わるとそのまま、ターニャの上半身全て覆い隠すように身体をずらす。
(やっぱり。
 マスターったら、私を庇って、自分の身を危険にさらす。
 マスターに傷一つ付けないんだから。)
ターニャは和彦に完全に覆いかぶさられる前に、もう2発、ストライクイーグルを目にもとまらぬ速さで連射した。

その頃、和彦たちとは違う建物に逃げ込んだイリスは、いきなり五人の男たちに襲われた。
男たちは、イリスの腕を掴むと、そのまま地面に寝かせ押さえつける。
「おい、詠唱さえるとまずい。
 口をふさげ。
 それに指も動かせないようにしっかりと握れ。」
リーダー格の男は、的確に指示を出しイリスの動きも魔法も封じ込めた。

イリスは、丸い球のようなものを口に入れられ、その上からタオルのようなもので口を縛られ、声を出すことが出来なかった。
そして、両手の指は男たちが自分の指をイリスの指と指の間に入れ、そのまま握り込んだので動かすことが出来なかった。
「×■#$」
声も出せないイリスは、必死になって抵抗しようとしたが男たちの力に負け、何もできなかった。

男たちは、アーサーから命令を受け、イリスを狙っていたアントニオ、ジーニョ、マンタ、エリオット、それにスネークだった。
「おい、スネーク、早く犯っちまおうぜ。」
「待て、ジーニョ。
 念のためだ、奥の部屋引連れていけ。
 マンタ、お前は見張りだ。」
「えー、またですか。」
「文句を言うなよ。
 あとで少し楽しませてやるから。」
スネークと呼ばれた男は、残忍そうな笑い顔をして見せた。

イリスは三人の男たちに担がれるように、スネークの言った奥の部屋に連れていかれた。
その部屋は、何の家具も装飾品もなくがらんとしていたが、部屋の真ん中にシングルベッドが置かれていた。
「$&%★」
そのベッドを見てイリスは身体を捻じって抵抗しようとしたが、何もできず、ベッドの上に寝かされると、両手をタオルで巻かれ指を固定させられ、手首を紐で結わかれ、反対の紐はベッドの脚に巻き浸かられ、まるで十字のように両腕を左右に固定されていた。

「くくく、結構綺麗な顔してるじゃんか。」
「まあ、モニター相手だから、美人が多いってな。」
「それを踏みにじるの、たまんねーよな。
 ウィルスを注入する時の絶望的な顔。」
「そして注入されている時の顔って、何とも言えない顔をするんだよな。」
男の一人がベッドに腰を掛け、イリスの顔を撫でる。
イリスは怒りの満ちた目で、その男を睨みつける。

「まあ、ウィルスが全身に回ると、可愛い顔じゃなくなるが、まあ、それはそれで俺たちの仲間として楽しめるし。」
「おい、アントニオ、ジーニョ、遊んでないでとっととやっちまわないか。」
スネークが冷たく言い放つ。
「へいへい。」
そういうと、男の一人はイリスの腹部に馬乗りになると、上着の襟の部分を両手でつかむと、思いっきり左右に広げ、首から肩にかけてはだけさせ、次に、白いブラウスの襟のボタン辺りを両手でつかみと、一気に左右に開かせた。

君を!あなたを!

ターニャが和彦に笑顔を見せたとたん、失った左手の傷の辺りが光り出した。
光は直ぐ止み、何も変化が無いように見えたが、ターニャの血がしみ込んだ和彦のハンカチから血が消え、元の綺麗な色になっていた。
また、ターニャのLPが完全復活していた。
「マスター…。
私、何んだか元気になりました。」
ターニャ自身も予期しなかったのか、驚いた顔をしていた。

「腕は?
 左腕は痛くないのか?」
「はい、LPの流出も止まっています。」
「そうか、よかった。」
和彦がホットため息をついたその瞬間、頭上を銃弾がかすめて行った。
「げ、やばい。」
窓から外を見ると、5人の男たちは10メートルもないくらいの至近距離に近づいて来ていて、すぐにでもマシンガンを掃射するような仕草を見せていた。
「ターニャ、こっちに。」
「はい。」
「ラウンドイーグルは使えるか?」
「はい、でも、左手がない分、精度に欠けるかと思います。」
「こんなに近くなら大丈夫だろう。」

和彦はそういうと、窓の近くのテーブルにターニャを連れて行き、ターニャは上半身をテーブルの上に乗せ、射撃姿勢を取ると、和彦がその上からTM55を持ち、ターニャを庇うように覆いかぶさって、射撃姿勢を取った。
「ちょっと、マスター。
これじゃ、マスターが弾避けになってしまいます。」
「そんなつもりはない。
 ターニャは片手でラウンドイーグルの発射衝撃を耐えられないだろ。
 だから、僕が上から挟み込んでターニャを固定する。
 もう、ゆっくり狙いを点けてなんていいから、撃って撃って撃ちまくるぞ。」
(マスターは、そんなこと言っても、いつも私たちを庇ってくれる…)
「はい、マスター!」
ターニャは万遍の笑みを浮かべ、窓の外の敵に狙いをつける。

「いっけー!」
和彦たちは、タッチの差で男達よりも先に射撃を開始した。
(マスターが私を固定してくれるから、狙いが安定する。
 これなら、この距離なら難なく当たる。
 マスターを、あなたを傷つけてたまるもんですか。)
そう思いながらターニャは必死に正面の敵に向かって引金を弾く。
タンタンタンとシングルアクションのラウンドイーグルがまるでマシンガンのように連射される。
和彦は、正面をターニャに任せ、TM55をショットガンモードにして、左右の敵に連続して引金を弾く。
敵も負けじとマシンガンで応戦するが、先手を打ったのと、和彦とターニャの狙いが正確だったので、すぐに勝敗が決し、男たちはマシンガンを残し霧散した。

「よっしゃー。」
和彦は勝利の雄たけびを上げると、身体の下のターニャを覗き込む。
「ターニャ、怪我は無いか?」
「大丈夫です。
 マスターは?」
「あはははは、まぐれか、一発も当たらなかった。」
ターニャは嬉しそうに身体を捻じり、和彦の頬にキスをした。
「さて、イリスとナディアが心配だけど、きっといるよな?」
「はい、おそらく」
和彦とターニャは、最初に撃ってきて、ユッカをゲームアウトさせ、ターニャの左手を奪った狙撃手のことを気にしていた。

「狙撃手の場所はわかるか?」
「だいたいは。
 でも、ちゃんと見ていませんし、時間が経っているので移動しているかと思います。」
「だよなぁ。
 でも、何とかしないと、二人のところへはいけないからな。」
「はい…。」

和彦たちを最初に襲った狙撃手のチロルは最初の狙撃地点から少し移動し太陽を背にして広場の中心に銃口を向けて、狙撃の姿勢を取っていた。
「ありゃりゃ、5人ともやられたか。
 まあ、男の方も少しは出来かな。
 しかし、今度出てきたら、あの女と同じように頭を吹っ飛ばしてやるよ。
 うひひひひ。」
チロルは仲間がやられても顔色一つ変えないで、ただただ、和彦の頭に銃弾を叩きこむことだけを考え、エクスタシーを覚えていた。

「仕方ない。」
「え?」
和彦は立ち上がると、狙撃手がいることを知らないような顔で、潜んでいた建物の窓に近づいた。
「マスター、なにを?!」
ターニャが理解できないという声を上げる。
「ターニャ、上。」
「え?
 あっ。」
ターニャは和彦のひと言で全て理解した。
和彦は、広場に出て、狙撃手に発砲させ、その位置をターニャに正確に把握させるために、自分が囮になるつもりだった。

「マ、マスター、危険すぎます。」
ターニャが和彦を引き留めようとしたが、和彦は窓枠を両手でつかむと、ひらりと窓の外に飛び出ていた。
「マスター…。」
ターニャは、和彦の言葉に従い、ストライクイーグルに持ち替え、遠距離スコープで最初に狙撃してきた付近をじっと見つめたが、内心、和彦のことが、気が気ではなかった。
(相手は凄腕のスナイパー。
 どうか、マスターに当たらないように。
 マスター…)
心配するターニャを後に、建物から飛び出した和彦は、まるで狙撃手がいることを忘れたかのように、普通の足取りで、イリスが飛び込んだ建物の方に、イリスの名前を呼びながら近づいて行った。

「ありゃ?
 男が建物から出て来たぞ。
 俺のことを忘れたのか?
 それとも、俺の銃弾なんて怖くないってか。
 ちきしょう。」
チロルは、和彦の予想だにしなかった行動に、腹を立て、唇を噛むと、銃身が2メートル近くある機関砲のような狙撃銃を持ち直し、和彦の頭に照準をセットする。
「くっくっく、これが当たれば、楽に死ねるよ。
 今のお前も、生身のお前も、な。」
チロルはそう呟きながら、慎重に照準をセットし、引き金に手をかける。

「そろそろ、撃って来るかな。」
和彦は、演技をしながら心の中でそう思った。
そして、最初の狙撃の時に感じた気持ち悪さを感じた。
「来る!」
和彦は急に立ち止まると身体を反転しながらターニャのいる建物の方に身体を投げ出す。
反転するときにシュンと風を切る音とともに側頭部の髪の毛がむしり取られる間隔がした。
そして、銃弾が地面に当たり、跳ねる音ととに、ダーンという銃撃音が聞えて来た。
和彦は、すぐに体勢を立て直すと、撃ってきた方を見ずに、ジグザグに体を揺らすようにして全速力でターニャのいる建物に走って行き、出て来た窓に再び飛び込んだ。
その時、右足の踵が熱くなるのを感じるのと、ダーンという銃声が同時に聞こえて来た。
和彦は減速することなく勢いそのままで窓から室内に飛び込んだため、ごろごろと転がるようにして壁に激突した。

「きゃあ、マスター!
 大丈夫ですか?」
和彦は派手に激突したがすぐに起き上がった。
(子供の頃に習っていた柔道の受け身が役に立ったか)
和彦は、腕を回したり、首を振ったりして、体のどこかに異常がないことを確認しながら、机の上でストライクイーグルを構えているターニャに近づいた。

「で、わかった?」
「はい。
 2発も撃ってくれたので、しっかりと。」
「2発?」
和彦は、ハッと思い出し熱く感じた右足の踵を見ると、靴のかかとの部分が大きくえぐれていて、チロルの撃った銃弾がかすめたことを物語っていた。
プロフィール

電脳子猫@委員会

Author:電脳子猫@委員会
エロ、グロ、怖いのは苦手。
時代劇や明るくちょっとエッチなSF好きのコンピュータエンジニアです。
どこかで読んだこと、見たことがある?
そんなことも随所に出て来るかと思いますが、それもお楽しみとして。
あくまでもオリジナル小説を目指します。

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